「天命の子~趙氏孤児」中国古典説話の魅力

天命の子~趙氏孤児タイトル

こんにちは、皆さん! 中国の古典説話「趙氏孤児」を元に作られたドラマ「天命の子~趙氏孤児」は、知的好奇心を刺激する魅力に満ちた物語です。古代中国の精神文化を背景に、作品に込められた智恵や哲学を経由して、古代中国に生きた人々の奥深い感性に触れることができます。

中国の古典に興味のある方なら、この物語を映画(日本では「運命の子」)で知った方も多いと思いますが、TVドラマでは時間をかけた分、更に綿密に、じっくりと味わえる作品となっています。
本記事では、この作品が持つ見どころ・感じどころ、感動の要素を探求しながら、一緒に中国古典の説話の世界を覗いてみたいと思います。

目次

「天命の子~趙氏孤児」予備情報

「天命の子~趙氏孤児」は、2013年、中国の国営放送CCTVで放送された全45話の物語です。
陰謀により抹殺された一族の、親子二世代に渡って繰り広げられる善と悪の戦い、陰謀と真実を分ける知恵のバトルが粛々と描かれま。”義”を重んじた熱き男たちの、命をかけた愛と復讐の物語です。

【スタッフ】

監督:イェン・ジェンガン
脚本:チェン・ウェングイ

【キャスト】

程 嬰(ていえい)役:ウー・ショウポー(趙朔の食客で医師)
屠岸賈(とがんこ)役:スン・チュン(晋の重臣で趙朔ライバル)
荘 姫(そうき) 役:チェリー・イン(趙朔の妻)
韓 厥(かんけつ)役:イージェン(晋の将軍で趙朔の友人)
公孫杵臼(こうそんしょきゅう)役:チャン・イーウェン(趙朔の食客)
大業(=趙武)役:ワン・ユー(程嬰の息子=実際には趙朔の息子)
晋・景公(けいこう)役:チョン・ハオ(晋の君主)

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「天命の子~趙氏孤児」ざっくりあらすじ

古代中国、春秋戦国時代。
国境近くで医師をしていた程嬰は、負傷した晋の将軍を治療したことから、偶然、晋の重臣である屠岸賈の陰謀を知り命を狙われますが、趙朔に救われ食客として都で暮らすことに。

屠岸賈は過去の因縁から、ライバルの趙朔と趙氏一族を滅ぼそうと画策していました。

天命の子/月

屠岸賈は趙朔を陥れるため、君主に刺客を送り、その罪を趙朔に被せるよう巧妙に仕組みます。
趙朔に恩義を感じる公孫杵臼や程嬰の努力も空しく、ついに趙朔は濡れ衣で一族もろとも殲滅されてしまいます。

ちょうどその時、程嬰の妻・宋香と趙朔の妻で君主景公の姉・荘姫がそれぞれ男児を出産します。趙氏の血を絶ちたい屠岸賈は荘姫の子の命を絶とうとしますが、間一髪で程嬰が救出します。

屠岸賈は執拗に赤子の命を狙うため、程嬰と公孫杵臼は一計を案じます。それは趙朔の子趙武を守るため、別の赤子を入れ替え身代わりにたてることでした。しかしそれは悲惨な計画で、程嬰は我が子を死に至らしめる苦渋の決断だったのです。

結果、計画はうまくいったものの、程嬰は世間から裏切り者と誤解され、荘姫や韓厥から命まで狙われることになってしまいます。

かねてより程嬰の医術や賢明さを評価していた屠岸賈は、家族共々自分の屋敷に食客として迎え入れることを提案します。程嬰は、敵の世話になることには抵抗がありましたが、家族の安全のため、やむなくこれを受け入れ、屠岸賈の屋敷で暮らすことにしたのです。遠い将来の復讐をも見据えて・・

屠岸賈には程嬰の息子・大業(実は趙武)と同じ年頃の息子・無姜がいました。程嬰は二人の師となり心を尽くして忠孝を教え込みました。

19年後、大業は立派に成長しました。ある時、大業は趙家の屋敷跡で荘姫や遺臣と巡り合い、自らの出自に疑念を持ち、兄弟のように育った屠岸賈の息子・無姜と共に探り始めます。
次第に趙家没落の事情に近づき、荘姫も真相を知ることに。いよいよ屠岸賈への復讐が動き出します。

今や強大な勢力を持つ屠岸賈は、君主を追い落としにかかるのですが、それを阻んだのは、なんと息子の無姜でした。そこへ趙武や韓厥も加勢し勢力図は反転します。
果たして、屠岸賈に裁きの鉄槌は下されるのでしょうか・・

★程嬰は自分の息子だけでなく無姜をも正しく教え導いたのですね。
程嬰の忍耐の日々が思いやられます。

「天命の子~趙氏孤児」見どころ・感じどころ

天命の子/夕日

「趙氏孤児」という物語は、悲劇の説話として2000年以上に渡って語り継がれてきた中国古典の名作です。古代中国の前漢の時代に司馬遷によって編纂された歴史書「史記」に載っている物語で、元の時代に改めて小説として著わされ劇化もされています。

まずは主人公程嬰の人格者たる人柄を見るべきでしょう。謙虚で賢明、臨機応変に対処する冷静さ、悪に屈せず正・義を大切にする姿勢ですね。現代ではこんな人格者は少ないのではないでしょうか。(少なくとも自分には真似できない、クーっ)

春秋戦国時代のストーリーにしては戦闘シーンは少なく、主人公程嬰と悪役の屠岸賈との腹の探り合い、胆力の試し合い、騙し合いに目が離せません。
動きが少ないのですが、それでも目が離せない、絶妙な駆け引きで粛々と展開してゆくんですねー。

一番うーんと唸ってしまったのは、程嬰が我が子を身代わりにすることに悩み苦しみ、決断し、実践に迫られるシーンでした。見ている方もハラハラと悩んでしまいました。

主人公程嬰役はベテラン俳優のウー・ショウポーさん。三国志~司馬懿 軍師連盟~でも主演を務め、重厚な歴史ドラマになくてはならない俳優さんですね。天命の子〜趙氏孤児では彼の鬼気迫る演技に脱帽、国際エミー賞の最優秀男優賞にノミネートされました。

程嬰は見た目は冴えないおじさんですが、腕のいい医師。そして学識も有り、洞察力・忍耐力に優れ、謙虚で賢明、決断力もある人格者。悪人・屠岸賈も一目置く存在の人物として描かれます。

悪役・屠岸賈を演じるのは、こちらもベテランのスン・チュンさん。琅琊榜<弐>~風雲来る長林軍~では、主人公の父親役でした。
相貌が温和な感じで、一見悪役には見えません。敵であってもその能力を尊敬する度量もあり、悪役ですが、妻や子をとても大事にする人間味あふれる人物に描かれます。

女性の出演は主に程嬰の妻と荘姫なので、他の宮廷映画のような華やかさはありません。復讐に燃える荘姫役はチェリー・インさん、ドラマ中唯一の美人、魅力的です。

歴史で習いましたね、古代中国の春秋戦国時代。春秋時代の五覇というと、晋・楚・秦・斉・宋。その後、晋は趙・魏・韓に分裂、戦国時代の七雄と称される趙・魏・韓・秦・楚・斉・燕の国が勢力を争いました。
さて、物語りの背景が見えてきました。戦国七雄の一つ趙国を興したのは天命の子・趙武の子孫なのです。

趙家は普の重臣の中でも大きな力を持つ一族でした。「史記」によれば、ライバル屠岸賈の陰謀により趙家は滅ぼされるのですが、普の君主の姉で趙朔の妻・荘姫は、妊娠中のため宮殿にいたので難を逃れ、息子・趙武を出産します。やがて、趙家の遺児となった趙武が成人し家を再興するというものです。
趙家の殲滅は、普景公の御代(紀元前583年)に起こった事件「下宮の難」に当たるできごととされます。

「天命の子~趙氏孤児」に見る中国の説話探検・あれこれ

天命の子/寺院

おとぎ話から始まり、神仙話・歴史物語・軍記戦記物・霊談奇談・仏教説話など、
中国の説話には様々なおもしろい物語が溢れています。

趙家の没落と再興をドラマチックに描いた古典小説「趙氏孤児」。中国古代の歴史を知る古典資料のうち、趙氏孤児に関しては「史記」や「春秋左氏伝」にその記載があります。
物語の中で重要な枠割を演じているのが程嬰です。実際にはどんな人だったのでしょうか。

程嬰は紀元前6世紀頃の古代中国春秋戦国時代に生きた人で、遺児趙武を助けて趙家の再興に力を尽くした勇敢な人物とされています。医師であり、普の大臣趙朔の食客もしくは友人だったともされています。

物語りの最後は、趙家再興の目的を果たした程嬰の自害で締めくくられます。公孫杵臼や我が子を死なせてしまったことへの罪悪感をずっと持ち続けていた故でしょう。

程嬰は「史記」には登場していますが、同じ事件が記録された「春秋左氏伝」では内容が異なります。

「春秋左氏伝」では、趙朔の妻・荘姫と叔父の趙嬰斉との密通が発覚、趙嬰斉は追放されます。趙朔を恨んだ趙嬰斉は、君主景公に謀反と嘘の告げ口をして趙朔を滅ぼしました。その後、荘姫が趙武を出産し、荘姫のもとで育てられ、やがて韓厥の進言で趙家は復活する、ということで程嬰という人物は登場していません。

「趙氏孤児」は小説なので、どこまでが史実で、どの部分が虚構なのかは謎に包まれています。

〈小説・歴史物語〉

三国志演義/三国時代(魏・呉・蜀)の約100年の戦乱が壮大に描かれたこの作品は、中国文学史上最も有名な軍記物の一つとされています。明代に成立。

水滸伝/北宋の末期、権力者たちの不正に対抗する108人の義賊たちが梁山泊に集い、武勇と義をもって活躍する物語。多くの冒険や人間ドラマが展開されます。明代に成立。

〈歴史書〉

史記/中国の早期から前漢時代までの変遷を記録した書。各時代の皇帝や王の治世や出来事、時代背景や偉人・英雄の伝記、そして年表が記録されている歴史書です。前漢の時代、紀元前91年に司馬遷によって編纂されました。

〈霊談・奇談〉

封神演義/仙人や妖怪、神々の権力争いなど、神話的な要素が盛り込まれた物語。美女妲己に憑依した狐狸精が紂王を籠絡し暴政に走らせる話はよく知られています。明代に成立。

聊斎志異/神仙、幽霊、妖狐などにまつわる怪異譚。道家の仙術や霊薬の神秘などが幻想的に描かれた物語。清代に成立。

〈仏教説話〉

西遊記/孫悟空や三蔵法師などの個性豊かなキャラクターが登場する冒険譚。戦いや修行を通じて成長してゆく物語。

弘法大師西域記/弘法大師が様々な困難を乗り越えながら、仏教の教えを伝える物語で貴重な教訓が語られます。

〈おとぎ話〉

白蛇伝/白蛇が美しい女性に化身し肝を食うため若い男性を襲うという説話。時代と共に脚色され、白蛇の化身と人間の男性の恋物語に変わっていき、映画・ドラマ化も盛んに。

牛郎織女/天帝の娘・織姫は牛飼いの牽牛と愛し合い、天帝の怒りをかって天の川で隔てられてしまった。一年に一度七月七日の夜だけ二人が会うことを許したという、ご存知七夕の伝説です。

孟姜女/その昔、孟姜女は万里の長城の建設に徴用された夫を尋ねますが、既に夫は亡くなっていて、悲しんだ孟姜女が大泣きに泣き崩れると、万里の長城が数里に渡って崩壊してしまったという伝説。

梁山伯と祝英台/愛し合う祝英台と梁山伯。しかし結ばれぬ運命に梁山伯は病死、英台も後を追うことに。悲恋の後には一対の蝶が舞っていた、というラブ・ファンタジー。

★日本の古典で言えば、古事記・日本霊異記・竹取物語(かぐや姫)・今昔物語・源氏物語・平家物語などにあたるものでしょうね。

「天命の子~趙氏孤児」まとめ

はい、「天命の子~趙氏孤児」、なかなか見応えのある人間ドラマでした。感動しました!

中国の映画・ドラマというとワイヤーアクション、仙人仙女のヒラヒラ舞の軽さとは一線を画した骨太で重厚な作品でした。

程嬰と屠岸賈の会話一つとっても無駄がなく、そのやりとり、受け答えをじっくり聞き入ってしまうほど、目も耳も離せませんでした。動作が少ない映像でも引き込まれる、脚本の力に依るところがとても大きいと言えますね。

とにかく、記憶に残る作品、心に刻まれる作品、感動しました!

★それでは、またお会いしましょう。Good Luck!

本ブログはSWELLを使用しています
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この記事を書いた人

居所地:日本の中央山岳地域で田舎暮らし
映画・TVドラマ大好き人間
古代ロマン・スピリチュアル小説ファン
Pen name:東岳院展大
Blog nickname:福徳星人

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