こんにちは、皆さん! 西部劇「許されざる者」は、アメリカにおける開拓者と先住民インディアンとの壮絶な戦い、対立と偏見を背景にしたストーリーで、私たちに強烈なメッセージが問いかけられます。
この作品が掲げる「許されざる者」とは一体誰なのか、人権とアイデンティティ、そしてインディアンの悲史についても言及せざるを得ません。
インディアン戦争と言われる過去の闘争と苦難が織り成す暗い歴史は、現代社会においても引きずられ深刻な問題として提議されています。
今回は、私たちの心に深い問いかけを投げかける「許されざる者」のメッセージについて考えてみましょう。
「許されざる者」予備情報
「許されざる者」(原題:The Unforgiven)は、1960年公開のアメリカの映画です。
開拓者とインディアンの対立と偏見を背景に、奪われた子供を取り返しに来たインディアンとの戦い、白人に育てられたインディアンの娘が、自らのアイデンティティーに悩んだ末、ラストでは血族に銃を向けるというストーリー。
オードリー・ヘプバーンにとっては唯一の西部劇出演作です。
〈ご注意〉本作はクリント・イーストウッド主演の映画ではありません。
【スタッフ】
監督:ジョン・ヒューストン
脚本:ベン・マドー
【キャスト】
ベン・ザカリー役:バート・ランカスター
レイチェル・ザカリー役:オードリー・ヘプバーン
キャッシュ・ザカリー:オーディ・マーフィ
「許されざる者」ざっくりあらすじ
テキサスで牧場を営むザカリー家は五人家族。かつてインディアンに殺された父の跡を継いだ長男のベン、次男のキャッシュ、三男のアンディ、そして母親と養女レイチェルが平和に暮らしていました。
一家と親しい近隣の牧場主ゼブは、美しいレイチェルを自分の長男チャーリーの嫁にしたいと考えていました。
しかし、レイチェルは秘かに兄のベンを愛していたのです。
そんな中、ケルシーという怪し気な老人が現れ「レイチェルにはインディアンの血が流れている」と吹聴し始めます。
一家はあらぬ噂に悩まされていましたが、ある日突然、カイオワ族インディアンのチーフ、ロスト・バードがザカリー家を訪ねてきました。
「幼い時に連れ去られた妹を返せ」と迫ったのです。ベンは「妹は白人だ」と要求を拒絶します。
しかし、ゼブ家のチャーリーが待伏せたカイオワ族に惨殺されてしまいます。ゼブ家は例の噂を真に受け、レイチェルを罵り、絶縁状態、一家は孤立してしまいます。
ベンは噂の源であるケルシーを捕らえ絞首刑にしようとしますが、ケルシーは恐ろしい過去を明かすのでした。
十数年前、インディアンとの闘争の中で、ベンの父親とケルシーはカイオワ族の赤ん坊を盗み移民の子と偽っていたのだと。その後、ケルシーの息子がカイオワ族に捕らえられたため、ケルシーは息子とレイチェルを交換するようベンの父親に頼んだが拒まれ、結局、息子は殺されてしまったのだと。ケルシーはザカリー家を恨み続けていたのです。
◆ ◆ ◆
真相を知った兄弟たちは、インディアンの娘レイチェルをこのまま家に留めるかで意見が合いません。
レイチェルは、家族のために自分はカイオワ族に戻った方が良いのではと思い悩みますが、しかしベンは温くレイチェルを抱きしめるのでした。
ベンの深い愛情を知ったレイチェルは、白人として兄たちと共に戦うことを決意します。
その夜一家はカイオワ族の襲撃を受けることに。反撃するも、銃弾は尽き、母親も負傷、絶体絶命。レイチェルにロスト・バードが迫ってきたその時、レイチェルは夢中で銃の引き金を引いたのです!
夜明けがやって来ます。果たして家族は厭まわしい過去と決別することができたのでしょうか・・
「許されざる者」見どころ・感じどころ
おもしろいことに気づきました。「許されざる者」という同じタイトルで、クリント・イーストウッドの映画があります。英題では「Unforgiven」です。日本では本作も同一に表現される「許されざる者」ですが、本作の方は「The Unforgiven」なんですね。「The」が付いたことで「絶対に許されない者」と、凄く強調された表現となっているのです。
◆正義と悪・誰が許されざる者なのか?
世界的にも人権運動が盛んな時代に制作された映画ですが、内容は視聴者個々の考え方によって千差万別に捉えられるものでしょう。初期の西部劇のように、単純にインディアンを悪者扱いしている映画ではありません。
映画では、そもそも白人がインディアンの娘を奪ったので、それを取り返すため襲撃してきたインディアンと戦わざるをえなくなったというストリーですが、一方で、インディアンも白人の子を奪い殺害しています。
奪われた妹を取り返しにきただけなのに、その妹に殺されてしまうとは・・生みの親より育ての親を選んだということですが・・
話し合いの解決を望んでいるインディアンを狙い撃ちするは白人側、また真実を語るケルシーを絞首刑にするのは身勝手な私刑と言わざるをえない・・
白人とインディアン、どちらが悪でどちらが正義か分かりません。誰が許されざる者なのでしょうか? 映画製作の当事者も多分割り切れていないのでは?
◆自分は何者?アイデンティティに悩む
オードリー・ヘプバーン演じるレイチェルの外見は白人そのもので、およそインディアンの娘には見えませんでした。故に、額にペイントする瞬間のシーンが特別に印象的で記憶に刻まれました。
白人と先住民のアイデンティティの間で揺らぎ思い悩むレイチェル、結局、自らの血統より兄と慕うベンへの愛情や家族を選び、彼女にとっては悲劇の結末となってしまうのです・・
本作は家族の絆を描いたようにも見え、民族闘争・民族差別を描いた映画にも見えます。最後まで、見終わった後も「許されざる者」とは誰だったのか疑問は解けません。
現在、インディアンはネイティブアメリカンとも呼ばれています。アメリカは多民族国家、先住民としてのアイデンティティに誇りと自信をもって共存してほしいと願います。
◆インディアン戦争・お馴染の西部劇!
本作も一応西部劇、お馴染の白人とインディアンの間で迫力あるドンパチがあります。しかし、勧善懲悪の明るくカッコいいものではなく、全体的に重い緊迫ムードが漂います。
映像的には、カイオワ族の襲撃、孤立した家に立てこもり応戦するシーンなど、西部劇らしい迫力ある描写が凄い、ワナワナします。
一方、心理的には、出生の秘密やそれを暴きにくる不気味な老人、白人とインディアンの対立・確執、それぞれがどうしようもない現実を抱えたまま、行き着くところへ行き着き、家族の絆は守られたが、不条理で凄惨な結末を見ることになった、という複雑なラスト・・なんともはや。
「許されざる者」に見るインディアン悲史
20世紀に作られ始めた西部劇映画では、アパッチ族やコマンチ族というインディアンが悪役として登場し、開拓者を襲うという姿が繰り返し描かれました。そのため、インディアンは悪い奴ら、恐ろしい部族というイメージが人々に植え込まれてしまいました。
そのため、当時のアメリカでは先住民というだけで、毛嫌いしたり馬鹿にしたり、人権を損ねる不当な扱いがあたりまえのように行われていました。
現在は、世界的に人権が尊重される時代です。民族主義や人種差別問題に向き合う時、迫害の歴史を振り返ってみるのも大切なことでしょう。
先住民族ネイティブアメリカン
15世紀中半から始まったヨーロッパの大航海時代。コロンブスがアメリカ大陸を発見しました。この大陸をインドだと勘違いし、先住民族をインディアンと呼んでいたとされます。
西部のテキサスはもともとコマンチ族とその関連部族の領地で、彼らは騎馬による狩猟民として暮らしていました。
ところが、ある時から見ず知らずの白人たちが次々にやってきました。最初は共存していましたが、土地は広大でも森や川などがあり暮らしやすい場所は限定されます。
次第に白人の数が増し、勝手に土地を開拓し入植し始めたのです。異民族が自分たちの土地で勝手なことを始めたら怒るのは当たり前です。
先住民と白人の戦い「インディアン戦争」
先住民と白人の間で争いが起き、次第に苛烈な戦争になってゆきます。白人たちは組織化された軍隊と銃器で先住民を圧倒、虐殺が繰り返され、インディアンたちは居住地を追われるしかありませんでした。
入植者たちは、先住民の暮らしの糧であるバッファローを大量虐殺、また金鉱採掘に先住民を奴隷として狩り出しました。
ついに、怒り心頭に発したコマンチ族やカイオワ族たちは同盟を結び、白人に対して全面的に戦いを挑みました。テキサスの「インディアン戦争」です。
しかし、インディアンはこの戦争で破れ、彼らはすべてオクラホマ州へ強制移住させられてしまいました。
1622年~1890年、約250年の間に白人入植者とインディアンの間で果てしない紛争が続き、最終的にインディアンは90%以上が激滅したとされ、世界史上最も悲惨な虐殺として知られています。
ネイティブアメリカンのアイデンティティ
前述のようにして、アメリカ大陸はヨーロッパの白人によって侵略されてしまったのです。その悲劇的な歴史は現在もひきずり暗い影を落としています。
土地を追われたインディアンたちは、アメリカ政府が管理するインディアン居留地に押し込められ、インディアン特有の宗教・儀式は禁止・弾圧、キリスト教化が強いられました。
そうした特定の場所は現在も存在し、インディアン=ネイティブアメリカンは、今でも仕事に付きにくく貧困やアルコール依存症などに苦しむ人も多く社会問題となっています。
しかし、1934年にアメリカ連邦政府によるインディアン部族の公式認定制度が開始されました。認定されると、自治権の確立、経済的支援、土地の保護、文化的認知、法的保護が受けられ、インディアン部族独自の持続可能な発展を目指すことができるようになります。
ちなみに、インディアンのアメリカ大統領選挙への参加については、複雑な問題らしく答えを得ることはできませんでした。
過去の悲史を乗り越え、ぜひとも平和と共存共栄の道を歩んでゆけるよう祈りたいと思います。
インディアンがテーマのお勧め西部劇
【小さな巨人】1970年のアメリカ映画
老人の回想から始まる物語、創作ではあるものの、史実に即した話も含まれ、その話にはインディアンの悲壮な歴史が描かれます。シャイアン族に育てられた白人男性の人生を通して、先住民の悲劇や白人入植者側の悪行が対比されるドラマチックな西部劇。
★YouTube「小さな巨人」Pickup
【ソルジャーブルー】1970年のアメリカ映画
1864年、アメリカ北軍が無抵抗のシャイアン族とアラパホー族インディアンの村を攻撃、無差別に虐殺が行われた。後に「サンドクリークの虐殺」と言われる凄惨な歴史的事件を描いた作品。白人の暴挙を訴える制作者の強い思いが感じられます。過激な描写が多いのでご注意。
★YouTube「ソルジャーブルー」Pickup
【折れた矢】1950年のアメリカ映画
傷ついたアパッチ族の少年を助けたことがきっかけで、彼らを理解し、白人とインディアンの和平交渉を担おうと奮闘する主人公の姿を描いた作品。インディアンの生活・習俗が丁寧に表され、主人公がインディアンの娘と恋をするというところも斬新。
★YouTube「折れた矢」Pickup
【ダンス・ウィズ・ウルブズ】1990年のアメリカ映画
ケヴィン・コスナー自身が監督・主演を勤め、世界規模で大ヒットした大作。 アメリカ南北戦争時代、北軍の中尉とスー族インディアンとの心の交流を描いた西部劇。フロンティア精神と壮大なスケールの原風景が見どころ・感じどころ。先住民族を追いやった白人優位のアメリカ社会に警鐘を鳴らす作品。
★YouTube「ダンス・ウィズ・ウルブズ」Pickup
「許されざる者」まとめ
はい、んー、何と言えばいいでしょう。「許されざる者」、誰が許されざる者だったのでしょうか? いろいろ考えさせられる物語でした。
人類の過去長い歴史の中では、世界中で民族の征服戦争と殺戮が繰り返されてきました。アメリカ大陸で起きたインディアン戦争もその一つ。悲しい歴史です。
見終わった印象は、ほっとするとともに何か割り切れない後味が後をひきます。でも、やはり見ておきたい西部劇の一つ。救われるのは、オードリー・ヘプバーンが出演していることですね。でもやっぱり彼女に西部劇は似合わないみたいです。
それでは、またお会いしましょう。Good Luck!