こんにちは、皆さん! ドラマ「奇皇后」は、史実とフィクションが見事に絡み合う魅力的な歴史エンターテイメント作品です。
ヒロイン奇皇后の奇跡的な生涯と愛の物語を軸に、朝鮮半島の高麗から中原の帝国・元に渡る壮大な歴史背景と人間ドラマが織りなされます。
今回は、史実に基づく物語の背景や登場人物たちの人間模様を紐解き、ドラマが持つ魅力に迫ってみました。作品が描く独自の情熱に触れながら「奇皇后」が描く感動的な世界に嵌ってみましょう。
「奇皇后」予備情報
「奇皇后」は2013年~2014年にかけて韓国MBCで放送された、全51話の連続テレビドラマです。日本では「奇皇后~ふたつの愛 涙の誓い~」として放送されました。
14世紀の高麗や元を舞台に、数奇な運命の下、元帝国の皇后にまで上り詰めたヒロインの勇気と愛を描いた韓国の歴史ドラマです。
【スタッフ】
監督:ハン・ヒ イ・ソンジュン
脚本:チャン・ヨンチョル チョン・ギョンスン
【キャスト】
奇皇后 役:ハ・ジウォン(チェオクの剣・シークレットガーデン・ファン・ジニ)
元の皇帝役:チ・チャンウク(ヒーラー・ペクドンス・笑ってトンヘ)
高麗王 役:チュ・ジンモ(カンナさん大成功です・バッドガイズ・飛天舞)
皇太后 役:キム・ソヒョン(グリーンローズ・妻の誘惑)
タルタル将軍役:チン・イハン(マイシークレットホテル・弁護士の資格)
タナシルリ 役:ペク・ジニ(傲慢と偏見)
★YouTube「奇皇后~二つの愛 涙の誓い~」Pickup
「奇皇后」ざっくりあらすじ
時は14世紀の中半、中原の帝国「元」の末期の頃。
元への貢ぎ物・貢女として高麗の女たちが連行される途中、少女ヤンとその母親は、人質として同行していた高麗の世子ワン・ユの助けで逃亡を図ります。
しかし母親は、元の将軍タンギセの手にかかり命を落としてしまいます。
命からがら逃げ延びたヤンは身を隠すため男装し、スンニャンと名乗り成長します。
剣や弓の名手となり、男も凌ぐ腕前となったスンニャンは、密売の調査を行っていた高麗王ワン・ユと再会し協力し合うことに。やがて親しい友となった二人は、仲間と共に高麗の兵士となります。
ちょうどその頃、元の皇太子タファンが高麗に流罪となり、警護役にスンニャンが当たることに。元の権力者ヨンチョルはタファンを高麗で暗殺しようと襲ってきますが、スンニャンは必死にタファンを守りぬきます。
スンニャンは、わがままで軟弱なタファンに手を焼きますが、タファンはスンニャンに心を許し好意を持つようになります。
やがて、皇帝が逝去したため、タファンは元に呼び戻され、ヨンチョルによって傀儡の皇帝に擁立されます。
しかし、タファン暗殺未遂の責任を問われ、スンニャンの父は殺され、スンニャンは王を廃されたワン・ユと共に元の都・大都へ連行されることになってしまいます。
◆ ◆ ◆
スンニャンはヨンチョルの息子タンギセによって女性であるということがバレてしまい、元の宮廷で働くことに。
ワン・ユは国境の辺地へ戦闘兵として送られ、さんざん苦労しますが、戦果を挙げたことで大都に戻され、再会したスンニャンと結ばれます。
高麗での問題を解決するためワン・ユが大都を離れている間に、スンニャンはワン・ユの子を産み、ピョルと名付けますが、ヨンチョル一味の襲撃に遭い、子を失ってしまいます。
スンニャンは、父と母、そしてピョルの仇を打とうと誓い、権力を得るため、ヨンチョルに異心を抱く武将ペガンとタルタル軍師の助力を得て、キ・ヤンと名乗り皇帝タファンの側室となるのです。
◆ ◆ ◆
皇后であるヨンチョルの娘タナシルリは、タファンに寵愛されるヤンに嫉妬し亡き者にしようと画策しますが、ヤンはタナシルリの陰謀を見抜きこれらを暴きだします。
ヤンの強さと真心に感化された皇帝タファンもまた、ヨンチョルによる脅迫まがいの圧迫に不満を爆発させ、将軍ペガンとヨンチョル打倒の兵を挙げ、これにワン・ユもヤンも協力し、宮廷内外から攻撃を仕掛けます。ヨンチョルは四方を敵に囲まれ、ついに捕縛され、娘タナシルリと共に処刑されます。
新たな権力者となったペガンは、自らの姪バヤンフトをタファンの皇后とし、元を強国にするため侵略戦争を推進したため、戦争に反対するヤンと対立します。そして、ペガンの過ぎたる暴政には軍師タルタルも反発し、ペガンはタルタルに討ち取られてしまいます。
亡き皇后タナシルリの息子マハに毒をもった冷酷なバヤンフトも処刑され、ついにタファンは愛するヤンを皇后の座に迎えることができたのです。
◆ ◆ ◆
これまで陰ながらずっとヤンを支え続けてきたワン・ユは、高麗王に復帰することを許されます。
しかし、彼は高麗への帰途、皇帝タファンによって謀殺されてしまいます。
高麗の貢女だったヤンが皇后となり権力を奮うことを疎んだ皇太后は、内官のコルタと手を組み、タファンを亡き者にして元を掌握しようと画策します。コルタは、国を動かすほどの財力を持つ悪の組織メバク商団の頭だったのです。
それと気付いたタファンでしたが、毒薬を仕込まれ吐血してしまいます。しかし、最後の力を振り絞り、騙されたふりをして、メバク商団と宮廷に潜む仲間をあぶりだし壊滅させたのでした。
しかし、タファンの命は残りわずか、タファンは奇皇后の腕に抱かれ息を引き取ります。奇皇后は悲しみにくれますが、その時既に元帝国は大きく傾きかけていたのです。
相次ぐ内紛や暴政のため、各地で反乱が頻発、大都へも朱元璋率いる反乱軍が攻め寄せ、討伐に向かったタルタル将軍の戦死の非報が届けられます。
元帝国の最後を悟った奇皇后は、息子アユルシリダラと共に元の故郷、北方の新天地へと逃れてゆくのでした・・
「奇皇后」見どころ・感じどころ
チンギス・カンが興した巨大帝国・元。その元の動乱の末期を生き抜いた実在の女性・奇皇后の生涯をベースに、フィクションを絡め壮大なスケールで描いた歴史ドラマ「奇皇后~ふたつの愛 涙の誓い~」!
◆危機感満載ストーリーが抜群に面白い!
本作は高麗から貢女として連行され、低い身分から最高位の皇后となった奇皇后の闘争と愛を描いた物語です。ヤンは男性に劣らぬ武術と知性の持ち主、危機の度に相手を打ち負かしてゆく姿には見惚れます!
モンゴルでは悪女で知られる奇皇后ですが、本作では元に強制連行された母国の高麗の人々を助け見守り、動乱の世を戦い抜く力強く聡明な女性として描かれます。
高麗から元帝国へ、次々に壮絶な展開が待ち受け、先の読めないドキドキハラハラ感が続きます。何度も命の危機があり、隠された布石あり、どんでん返しあり、テンポの良いストーリーにどんどん引き込まれます。
正義と悪、愛と情、勇気と軟弱、欲望と挫折、といった人間模様がすべて詰まった感動物語です!
★撮影は世界最大の映画スタジオとされる中国の横店影視城で行われました。ここは一般の観光客も入れる観光スポットで映画・ドラマファン必見の場所、回り切れないほど広大だとか。行ってみたいなぁ・・
◆強烈な悪役がいてこそ主人公が際立つ!
長編大作のため登場人物もかなり多いですが、主人公&悪役共に個性的で、それぞれが物語に重要な存在となっています。主な登場人物の事情と悲壮な人間模様に触れてみました。
★美しく男まさりの知性派ヒロイン奇皇后
貢女として元に連行され後宮に仕えることになったスンニャン、生きるため、父母の仇をとるため、壮絶な運命に立ち向かい、ついには愛も権力も手に入れるのです。
男にも勝る奇皇后の強さと、凛とした美しさに知性を感じさせる人柄は、まさにハ・ジウォンさんのハマり役、波乱に満ちた奇皇后の生きざまを見事に演じています!
モンゴルや韓国では、奇皇后は悪女としてのイメージが強いようですが、本作では、母国高麗のために戦い、哀れな高麗の人々を思いやる優しく逞しい女性という姿で描かれます。
★奇皇后ヤンを愛した高麗王ワン・ユ
誠実で頼りがいのある男、ワン・ユ。精悍でありながら温かさを感じさせるキャラクターはチュ・ジンモさんにぴったりの役柄でした!
故郷の国と民を守るために戦い、そしてまた最後までヤンを想い、影ながらもヤンを守り続ける彼の姿には心打たれるものがあります。信念を曲げず貫き通す、まさに理想の男性像ですね。
終盤で惜しくも皇帝タファンに忙殺されてしまいます。残念、悔しい、ガックリ。
★奇皇后ヤンを愛した元の皇帝タファン
ヤンを愛したもう一人の男性、元の皇帝タファン。弱々しく優柔不断、無邪気、わがまま、そんなキャラクターを演じたのはイケメンのチ・チャンウクさん。
切なく恋しいヤンへの想いを募らせるタファン、死ぬ間際までヤンとその子を守ろうとする一途な心、母性本能をくすぐる憎めないダメ男ぶりは見事な熱演、好評価です!
★元の丞相・権力者ヨンチョル
ヨンチョルは、陰りの見えてきた大元帝国の再復活を望んでいました。そのため、敵対勢力の粛清を謀り、自身の勢力を拡大し力を蓄えていたのです。傀儡の皇帝タファンを始め高麗王、ヤンも、皆が苦しめられました。
混迷を深める元の末期、強大な権力者ヨンチョルが牽引していた元帝国は、彼が亡き後、内部の勢力争いや外部での反乱が頻発し、次第に国は傾いていってしまうのです。
★ヨンチョルの息子・冷酷非情なタンギセ
父親に従い冷酷非道に振る舞うタンギセ、彼には彼なりの考えがあり、偉大な権力者である父ヨンチョルに認めてもらおうと必死に頑張っているのです。彼のような冷酷非道な実践者がいてこそ、ヒロイン・ヒーローが引き立てられるというものです。
★ヨンチョルの娘・皇后タナシルリ
タファンの最初の皇后タナシルリ。彼女は父親の権力をあてに皇宮の最高位を誇ると共に、皇帝に愛されたかったのです。でも皇帝はヤンの方を向き自分を見てくれません。嫉妬心にかられるのも無理ないことで、ヤンを排除するため様々な謀を犯してしまうのですね。人間の悲しい性です。
★忠義と愛国心の塊・ペガン将軍
ペガン将軍は決して悪人ではありません。彼は元の始祖フビライ・ハンの血統への忠誠心により、ヨンチョルと同様、国を立て直し強くしたいという信念を持っていました。
しかし、その願望が強すぎて国を戦争へと駆り立てる横暴な政略に突っ走ってしまったことが敗因となり、結局は誅殺されてしまったのです。実戦には強いが智謀無く大局を見誤った惜しい人物です。
★奇皇后の師・元のタルタル将軍
冷静沈着にして智謀に長けるタルタル将軍、美形にして落ち着いた低い声、評価も人気も高いタルタル将軍。叔父のペガン将軍を智謀でサポートするのですが、大局を読みながらも既に傾きかけた国をどうすることもできなかったのです。反乱軍との戦闘で散ることを覚悟していたことが窺えます。残念。奇皇后と共に逃れ、北元で活躍できる人なのに・・
★最後まで諦めない悪役ヨム・ビョンス
この人物は一貫して性悪、裏切り・暗殺・強い者に媚び、高麗人でありながら終始ヤンとワン・ユに敵対する存在でした。しかし、彼がそんな生き方しかできなかったのは、高麗が元に屈し依存している時代のせいも要因の一つかもしれません。高麗人が元帝国の中で生き延びるのは容易なことではなかったはずですから。
★金や財物の信奉者・宦官のコルタ
メバクの首領コルタ、彼の目的は“金”でした。高位の宦官でしたが、人生の週末ともなれば誰も自分を守ってくれる者はいない、頼れるものはお金しかない、という考えに至るわけですね。現代においても同じことが言えます。その切実感、悲壮感は分からなくもありません・・
★ヨンチョル一族、ペガン将軍、タルタル将軍、はモデルとなる実在の人物がいるのですね。ワン・ユも元の人質となった高麗の王子がモデル?もちろん史実では立ち位置や人柄は異なるでしょうが・・
「奇皇后」史実を知ればもっと面白い!
当時の元と高麗の情勢は?
高麗は、918年、太祖・王建(ワンゴン)が建てた国家で、朝鮮半島の統一を果たし、開京に首都を置き、456年続いた国家です。1220年代から蒙古軍の度重なる侵入により、ついに降伏し元の属国となってしまいました。
高麗から王子を人質として元に差し出すこともあり、元朝宮廷の情勢により高麗王位が改廃される事態も免れませんでした。代々の高麗国王は元の公主の降嫁を受けることが習わしとなり、高麗王家と元の皇帝家とは姻戚関係が続くようになりました。
ドラマの中で姿は現さないのですが、セリフに時々登場する“奇皇后の兄”とは誰なのでしょうか?それは高麗の重臣キチョルではないかとされています。
奇皇后の出自、高麗の奇氏は底辺の家柄でしたが、その娘が元朝の皇太子の生母になったことで、キチョルを含む奇氏一門が権勢を振るうようになりました。当時の高麗王・恭愍王は反元の志を抱いていたので、元を後ろ盾に権力を乱用する奇氏一門をついに誅殺してしまいます。
史書によると、これを聞いた奇皇后は恭愍王の廃位を時の順帝に働きかけ、兵1万を高麗に向かわせました。しかし、元軍は高麗の伏兵に打ち破られ、奇皇后の面目は丸潰れとなった、と記されています。
その後、元に代わり朱元璋が明を建国すると高麗は明の属国となり、親明派と親元派で激しい対立が続きますが、1392年、武官・李成桂が起こした反乱(朝鮮の建国)により高麗は滅亡してしまいます。
奇皇后・本当はどんな女性?
奇皇后は高麗の奇氏出身で、元朝最後の皇帝・順帝トゴン・テムルの皇后として権勢を維持し、北元皇帝アユルシリダラの母である人物です。
聡明で美しく、積極的な野心家であり、どんな困難にも諦めない強い意志の持ち主だったようです。歴史書など書物に親しみ教養や礼節を高めた賢女とも言われています。貢女から皇后まで上り詰めた人ですから頷けますね。
貢女であった奇氏は順帝の寵愛を得て身分が上がりましたが、当初はキプチャク族出身のダナシリ皇后の嫉妬により冷遇され、たびたび理不尽な扱いを受けていました。しかしその後、ダナシリとその兄は謀反の罪で失脚、空いた皇后の座には、コンギラト族出身のバヤン・クトゥク皇后が冊立され、奇氏は次皇后となりました。
歴史資料では、順帝は酒色に耽り政治に怠慢であったため、奇皇后は高麗出身の宦官たちや官吏たちを取り込み、元朝廷での大きな政治勢力を形成してゆきます。彼女が産んだ皇子アユルシリダラを皇太子に冊立したことで、生母の奇氏は次皇后でありながら、恣に権勢を奮うことになります。
奇皇后は軍事統率権をも掌握し辣腕を振るう一方、大飢饉の際には、金銀財宝や穀物などを供出させると共に、私財を投じて救済物資を用意させたり、多くの餓死者のために葬式や埋葬、供養の手配に当たるなど善政を行っています。
その後、皇后バヤン・クトゥクが死去したため、次皇后の奇氏が昇格し奇皇后となりました。
歴史では順帝の寵愛を傘に着て、権力を思うがままにした悪女とされていますが、多面的には少々違ったニュアンスが見えてきますね。
元帝国の滅亡、その後の奇皇后は?
1368年、朱元璋率いる明軍が大都に迫ると、順帝は奇皇后や皇太子と共に大都から逃れてゆき、ここで元朝はあっけなく終末を迎えることとなりました。
順帝は内モンゴルの応昌を「北元」と称し再起を期していましたが、間もなくこの地で没し、皇太子のアユルシリダラが後を継ぎ、奇皇后は北元の皇太后となりました。
遼東方面には北元の支配下で、まだ20万の大軍が残存していましたが、やがてアユルシリダラは明軍に追われてカラコルムに逃れ、この地で没してしまいました。
異母弟トグス・テムル(北元の天元帝)が後を継いだものの、北元が頼みにしていた満州勢力が明に投降し、根拠地のブイル湖一帯を明軍に撃滅され、1388年、ここで北元の命運は尽き果て滅びてしまったのです。
この間、皇太后(奇皇后)が、いつ、どこで、逝去したものかは明らかになっていません。
「奇皇后」まとめ
はい、奇皇后という実在した人物を主人公にフィクションを絡め、見応えのある時代劇に仕上げられたエンターテイメントドラマでした。
アクション、権力闘争、陰謀、ロマンス、祖国愛、善人悪人それぞれの人間模様、そして歴史的観点からと、様々な視点で楽しめるドラマとなっています。
善や徳に根差した正しい生き方というのは、今の時代でも難しいことです。不条理が蔓延る時代に生きた人々にとっては尚更でしょう。
しかし、物語の中ではそれぞれが個々の信念のもとに決断し、行動し、力強く生きる姿が描かれました。
現代を生きる私たちも何らかの感慨を得ることができたのではないでしょうか・・
それでは、またお会いしましょう。Good Luck!