日本中が愛した映画「男はつらいよ」シリーズ全50作品・備忘録

男はつらいよタイトル

こんにちは、皆さん! 日本人ならきっと誰でも知っている映画「男はつらいよ」は、今尚多くの人々に愛され続け、私たちに人情あふれる人生と旅、そして笑いと恋多き多彩な喜怒哀楽を届けてくれます。

本シリーズは、葛飾柴又を舞台に、テキ屋を生業とする「フーテンの寅」こと車寅次郎を主人公に、彼の家族や友人たちとの温かい交流、そして旅先で出会うマドンナと繰り広げられる恋愛模様、惚れては失恋という結末に落ちる恋愛騒動が笑いと共に描かれ、毎回、しみじみと人生の機微を感じられるストーリーです。

本記事は、日本中が愛したこの名作のエピソードを簡潔に紹介した、マイ備忘録のようなものです。各作品それぞれの見どころや、物語から受け取る人生のキーワードも添え、寅さんの魅力や各地の風景を思い出しながら「男はつらいよ」の世界を振り返ってみました。

目次

「男はつらいよ」予備情報

映画「男はつらいよ」は、1969~1995年にかけて松竹で制作された48本のシリーズです。主人公の寅さんこと渥美清さんが亡くなられた後、寅さんファンや彼を惜しむ人々のラブコールにより、再編集やCGを活用し、1997年に特別編が、2019年には最終となる50本目が制作されました。

【スタッフ】

監督:山田洋次(第1作、第2作、第5作以降)
   森崎東(第3作)・小林俊一(第4作)
脚本:山田洋次 他

【レギュラーキャスト】

車寅次郎役:渥美清
諏訪さくら役:倍賞千恵子
諏訪博役:前田吟

おいちゃん役:森川信・松村達雄・下條正巳
おばちゃん役:杉山とく子・三崎千恵子
諏訪満男役:吉岡秀隆
タコ社長役:太宰久雄
御前様役:笠智衆

【準レギュラーキャスト】

浅丘ルリ子・後藤久美子・美保純・夏木マリ・志村喬・津坂匡章他

★YouTube「男はつらいよ」第1作 Pickup

★「男はつらいよ」シリーズは、あまりの人気の高さに、1年に2~3本というスピードで作品が生まれ続けました。ビックリです!

「男はつらいよ」シリーズ/備忘録

男はつらいよ/縁起物

【第1作 男はつらいよ】★★★★★
1969年/マドンナ:光本幸子

テキ屋でその日を暮らす流れ者の車寅次郎こと寅さん。旅先で幼馴染みの冬子と出会い、恋しさのあまり、冬子を追いかけて久しく足を向けていなかった故郷・葛飾柴又の団子屋とらやに帰ってきます。

帝釈天の午前様の娘・冬子と再会した寅次郎は、しばらくの間「♫ 殺したいほど惚れてはいたが、指も触れずに・・」と口ずさみながら浮かれ喜びの日々を過ごしていました。
そんな中、血の気が多くてガサツな寅次郎は、妹・さくらを大事に思うあまり、さくらと慕い合う隣の印刷会社に勤める博との仲を引っ掻き回し数々の騒動を巻き起こしてしまいます。
しかし、一連の嵐が過ぎ去った後、最終的には二人の結婚に協力し、快く自ら進んで祝いの宴を催します。

そんな喜び事の一方、冬子に婚約者がいることを知って愕然とする寅次郎。
「顔で笑って心で泣いて」傷心に打ちひしがれ、さくらに別れを告げ旅立ってゆくのでした・・

見どころ何といっても寅次郎の売り啖呵シーン!そして、喜怒哀楽の落差に笑える若き熱血の渥美さんの演技。嬉しさのあまり口ずさむ北島三郎の「喧嘩辰」の歌詞やメロディには裏社会やテキ屋の侘しさを感じさせるものがあります。 
人生のキーワード恋は思案の外

【第2作 続・男はつらいよ】★★★★
1969年/マドンナ:佐藤オリエ/ミヤコ蝶々・東野英治郎

柴又とらやに束の間戻っていた寅次郎は、恩師に出会い、その娘・夏子に一目惚れ。浮かれるあまり飲み過ぎて病院に担ぎ込まれるのですが、そこでまたまたトラブルを起こし脱走、更には無銭飲食と店長への暴力で警察に連行されてしまいます。
病院への謝罪は寅次郎の代わりに夏子が、警察へは妹さくらが身元引受人として対応します。心ならずも皆に迷惑をかけたことにいたたまれず、寅次郎はそこそに旅立つのでした。

その後、たまたま旅先で再会した恩師から薫陶を受けた寅次郎は、生き別れて久しい瞼の母お菊に会うことを決心します。しかし、実際会ってみると、イメージと全く異なり、やり手婆で寅次郎に「金の無心に来たのか」と冷たい態度。失意の寅次郎は再び柴又へと帰郷することに。

そこへ追い打ちをかけるように、夏子の婚約者が現れます。
「顔で笑って心で泣いて」失恋のつらい気持ちを胸に寅次郎は再び旅立つのでした・・

なんだかんだと言いながら、ラストでは、寅次郎と母親の仲睦まじい姿が映し出され、物語は温かい雰囲気で締めくくられます。

見どころ:寅次郎のハチャメチャ人生とミヤコ蝶々演じる母親との再会
人生のキーワード
:瞼の母、切っても切れない親子の縁

【第3作 男はつらいよ フーテンの寅】★★★★
1970年/マドンナ:新珠三千代

久方ぶりに舞い戻った寅次郎に見合い話がもちあがりますが、またまたトラブル発生、寅次郎はおいちゃんと大喧嘩の末、出て行ってしまいます。

旅先の伊勢・湯の山温泉で体調をくずした寅次郎は、温泉宿・もみじ荘の女将・お志津の情で宿に泊めてもらうことに。
着物姿の美しい未亡人のお志津に惚れこんだ寅次郎は、宿代の代わりに住み込みで働くことになり、そこに居ついてしまいました。

しかし、お志津には再婚を考えている相手がいたのです。一生懸命働いた末に、そうと知った寅次郎は、またまた失恋の痛手を被り「顔で笑って心で泣いて」お志津に別れを告げ静かに去って行くのでした。

見どころ:マドンナ新珠三千代の美しい所作や着物姿。ラストでは、新年を迎えた霧島神宮で威勢のいい啖呵売をしている寅次郎がテレビ取材され、こたつで正月を祝うとらやの面々の前に映し出されます。本作は正月の公開映画、新年の門出を祝うように笑いが振りまかれます。
人生のキーワード:労働の対価が辛く返ってくることもある

【第4作 新・男はつらいよ】★★★★
1970年/マドンナ:栗原小巻

旅先でふと家族孝行を思い立った寅次郎、思いがけず名古屋の競馬場で大穴を当てた!100万円を手に、日頃の恩返しと、おいちゃん夫婦をハワイ旅行に連れてゆくことに。

しかし、町内の人々に見送られての出発当日、旅行代金を持ち逃げされ、戻るに戻れず、夜になってこっそり家に戻り潜んでいることにしました。ところが、ハワイ旅行で留守と知る泥棒が忍び込んできて、双方ビックリ一騒動で、近所の人たちに知れ渡り一家で大恥をかいてしまいます。
文句や愚痴が寅次郎に向けられ、ただ孝行をしたかったという思いを理解してもらえない寅次郎は怒って柴又を飛び出してしまいます。

一と月後、寅次郎が戻ってくると、2階の自分の部屋が間貸しされていることに腹を立てるのですが、そこへ現れた美しい女性が借りていると知り機嫌は一変、幼稚園の先生と言う春子と親しくなろうと努力します。

しかしそんな折、春子の父親が急死し、仙台に住む友達という男性が春子を訪ね柴又にやってきました。間が悪く帰宅した寅次郎はすぐに二人の仲を察し呆然。
今回も失恋してしまった寅次郎は、恩返しらしいことができなかったとつぶやきながら寂しく旅立つのでした。

見どころ:競馬で当てた金で計画したハワイ旅行が消滅してしまうドタバタ喜劇。ラストは旅先の汽車の中、泥棒の話で乗客を爆笑させる懲りない寅次郎の姿が。
人生のキーワード:親孝行は生きてるうちに

【第5作 男はつらいよ 望郷篇】★★★★
1970年/マドンナ:長山藍子

久しぶりに柴又に戻ってきた寅次郎、おいちゃんのドッキリ葬式に怒るも、そんな時、舎弟の登から、北海道でかつて寅次郎が世話になった極道・竜岡が危篤と伝えられます。恩返しに駆け付けた寅次郎は、一人病院のベッドで落ちぶれている竜岡の姿に愕然とし、最後に息子に一目会いたいと言う竜岡の願いを叶えようとします。

そして、蒸気機関車で汗水垂らし働く息子を探し出したのですが、息子は暴力を振るい母親の死も省みない父親には会いたくないと寅次郎の説得を拒みます。失意のうちに竜岡は亡くなり、寅次郎はその極道の末路に自らの行く末を見て暗澹とするのでした。

柴又に戻った寅次郎は、堅気になろうと働く決心をするのですが、以前から寅次郎を知る近隣では片っ端から断られてしまいます。どうしたものかと小舟の上で思案・居眠りするうち、ゆらゆらと流れ着いたところが浦安の豆腐屋。寅次郎はここで住み込みで働き始めたのです。
寅次郎は、汗水垂らして働くことに意欲満々、なぜなら、豆腐屋の娘で美容院で働く明るい女性・節子に、またしても恋をしていたのです。

勤勉に働く寅さんを見込んで節子は、豆腐屋を営む母を手伝ってほしいという思いから「もしできたら、ずっとうちの店にいてもらえないかしら」と言います。しかし、節子が結婚間近と知らぬ寅さんは、その言葉を自分へのプロポーズと勘違いしたことから、突然の大失恋へと発展してしまいます。

それでも「顔で笑って心で泣いて」その場をつくろい茶化します。
寅次郎は「やっぱり地道な暮らしは無理だったよ」とさくらにこぼし、旅立ってゆくのでした。

見どころ:極道と堅気が絡む明暗の人情喜劇。寅次郎のやくざな凄み、見事な失恋シーンが名演です。
人生のキーワード:人生山あり谷あり、どんでん返しもあるのだ!

【第6作 男はつらいよ 純情篇】★★★★
1971年/マドンナ:若尾文子/森繁久彌・宮本信子

舞台は長崎の港町。五島行きの船を待つ女性に、故郷の妹さくらを思い出し声をかける寅次郎。何やら事情がありそうなその女性・絹代の実家まで同行することに。絹代の父親に「故郷は?」と問われ、寅次郎は柴又とらや一家を思い出し帰郷を決意します。

とらやに戻った寅次郎は、自分の部屋に下宿人が居ると知って怒り出すが、それが夕子という和服美人と知ると態度がコロッと一変。
夕子は小説家の夫との生活がうまくいかず別居していたのです。寅次郎は相変わらずもめ事を起こしながら夕子の世話をやくことに献身していたのですが、ある日、別居中の夫が自分が悪かったと謝罪し夕子を迎えに来て、夕子も夫の元へ戻ることを決め一件落着となってしまいます。

ガックリと肩を落とした寅次郎、夕子との別れに「顔で笑って心で泣いて」、失意の寅次郎は再び旅立つことに。
柴又駅に見送りに来たさくらは「つらいことがあったら、いつでも帰ってきてね」と、傷心の兄・寅次郎を慰め別れるのでした。

見どころ:冒頭の物語にちょっとだけ出演の森繁久彌さん。そしてラスト、柴又駅でのさくらと寅次郎の別れのシーンに泣けます。
人生のキーワード:故郷は遠きにありて想うもの

【第7作 男はつらいよ 奮闘篇】★★★★
1971年/マドンナ:榊原るみ/田中邦衛

青森は津軽を旅していた寅次郎、集団就職で上京する若者たちを寅次郎が「がんばれよー!」と励ましています。
その後、ふらりと柴又に帰って来た寅次郎、たまたま、とらやを訪ねてきた実母お菊の小言に嫌気がさし、またすぐに旅に出てしまいます。

静岡へやって来た寅次郎、津軽訛りの少女・花子を見かけ軽い知的障害があることに気付き、放っておけず、事情を聞くと、集団就職で来たものの仕事が合わず故郷の津軽に帰りたいと言います。何とか力になりたいと、寅次郎は葛飾柴又帝釈天通りのとらやを訪ねるようメモを残し、数日後、二人はとらやで再会を果たします。

花子は優しい寅次郎になつき、寅次郎も「花子、もうお前どこへも行くな。俺が一生面倒見るからよ」と、その気になってしまいます。

しかし、このままにはしておけないと、さくらたちが津軽へ連絡をとると、ある日、寅次郎の留守中に、花子の教師という身元引受人が、教え子の花子を迎えに来て一緒に津軽へ帰ってしまったのです。
それを知った寅次郎は激高しますが、花子の幸せのためと言うさくらに理性を取り戻し、しかし、失望した寅次郎は、さくらを押しのけてとらやを飛び出します。

数日後、寅次郎から「花子は元気にしていたし、俺はもう用のない人間だ」と遺書めいた手紙が届き、とらや一家を不安に陥れます。が、当の寅さんは旅先のバスで乗客や車掌さんを例の如く笑わせていました!

見どころ:時代を写した集団就職のシーンを絡め、心をほっこりさせてくれる温かい人情喜劇、仕上がりは上々です!
人生のキーワード:人は誰にでも優しくあれ

【第8作 男はつらいよ 寅次郎恋歌】★★★★
1971年/マドンナ:池内淳子

プロローグ、寅さんは旅先で「坂東鶴八郎一座」と出会い、お互いに放浪稼業のつらさを語り合う・・

ある日、博に「母危篤」の連絡が入り、博とさくらは岡山の実家に向かいますが母親は亡くなってしまいます。たまたま岡山で商売していた寅次郎は、これを知り告別式に参加するのですが、相変わらずバカげた行動で顰蹙を買うことに。

寅次郎は博の父親・飈一郎としんみりと語り合い、人間は一人じゃ生きていけないと、家庭の幸せについて真剣に考えるようになり柴又に戻ります。

たまたま、近所にオープンした喫茶店の貴子に一目ぼれ、未亡人だと知ると好きでもないコーヒーを飲みに足繁く通い、彼女と家庭を持つ夢をみるのでした。

そのうち、貴子が店の経営に行き詰まっていることを知った寅次郎は、何とか力になりたいと思うのですが、如何せん金銭的には全くの無力、悲しきかな、身を引くしかなく、黙って柴又を後に旅立つ他なかったのでした・・

見どころ:寅次郎が幸せについて真面目に考えるも失恋で挫折。物語の冒頭&ラストに登場する巡業中の坂東鶴八郎一座との再会で、侘しき放浪人生の悲哀が描かれます。
人生のキーワード:幸せは一家団欒にあり

【第9作 男はつらいよ 柴又慕情】★★★★
1972年/マドンナ:吉永小百合(当時27歳)

所は旅先の金沢。3人連れの女性たちと茶屋で居合わせた寅次郎は相変わらずのバカを言って笑わせ、寅さんと会えたことで旅が楽しくなったと、焼き物の鈴をお礼にもらいます。寅次郎は、その中の一人歌子に強く心惹かれてしまいました。

間もなく柴又に戻った寅次郎の元を、その歌子が何度か訪ね、とらや一家とさくらとも親しくなります。
歌子は結婚を考えている男性がいるのですが父親が許さず苦悶しており、ついに書き置きを残して家を出てしまいます。
家出の理由を知らぬまま心配していた寅次郎の元を再び歌子が訪れ、その日は歌子と一緒の幸せな時間を過ごすのでした。が、交際していた人との結婚を決心したと告げられ寅次郎は内心愕然としますが、「顔で笑って心で泣いて」、歌子を祝福するのでした。

失恋した寅次郎と、その兄を思いやるさくらは、江戸川土手を歩きつつ、ゆくえ定めぬまま流れる雲を見やります。寅次郎は、あんな雲になりたいとつぶやき、去っていくのでした・・

見どころ:金沢での観光旅行気分と大スター吉永小百合の清純な笑顔。本作より2代目おいちゃん松村達雄さん登場。
人生のキーワード:運命はままならぬ

【第10作 男はつらいよ 寅次郎夢枕】★★★★
1972年/マドンナ:八千草薫/米倉斉加年

寅次郎が甲州の旅先から帰ってくると、近所の幼馴染だった千代と再会、「寅ちゃん」「お千代坊」と呼び合う仲。寅さんは千代の微笑みにたちまち恋愛感情を抱くようになってしまいます。千代は離婚して町内で美容院をやっているとのこと。

ところが、とらやの間借り人で物理学助教授の岡倉も千代に好意を持っていることがが発覚します。寅次郎は恋愛に奥手のインテリ・岡倉をからかうのですが、しかし、恋わずらいにかかってしまった彼に同情し、自分の恋心を封印、岡倉の気持ちを千代に伝えることに助力します。

しかし、どこですれ違ったか、千代は「寅ちゃんとなら一緒に暮らしてもいい」と言うのですが、寅次郎は告白めいたその言葉を照れ隠しで冗談にしてしまい、岡倉の手前、一人切なく旅立つのでした。

見どころ:マドンナ八千草薫のおっとりとした優しい微笑み。大人っぽくも愛らしい雰囲気、女心を絶妙な仕草で演じ、寅次郎の心も揺れ動く。
人生のキーワード:恋のキューピッドは辛い「顔で笑って心で泣いて」

男はつらいよ/ゆかたの女性

【第11作 男はつらいよ 寅次郎忘れな草】★★★★
1973年/マドンナ:浅丘ルリ子(当時 33歳)

舞台は北海道の網走。商売の旅の途中、寅次郎はキャバレーで歌をうたいながら暮らす旅回りの歌手リリーと出会います。寂しい波止場のほとりで互いの孤独を慰め合い、同じような境遇にあることで意気投合し、別れ際に「葛飾柴又の車寅次郎」「リリー」と名のり合うのでした。いつかどこかでの再会を約束して・・

旅の途中、とある酪農家と出会い、寅次郎はふと思い立って放浪生活改め、酪農で働き始めるのですが、重労働について行けずに寝込んでしまい、さくらに迎えに来てもらい柴又へと帰るはめに。

しばらくして、寅次郎に会いたい一心で柴又を訪ねてきたリリーを、とらや一家は温かくもてなします。
しかし、ある夜、リリーは母親とケンカし酒に酔い、深夜にとらやを訪れ一緒に旅に出ようと寅次郎に迫ります。寅次郎はリリーの気持ちを察しながらも、あと一歩を踏み出すことができず、リリーは泣きながらとらやを飛び出していってしまいます。
リリーの悲しみを受け止めてあげられなかった寅次郎は後悔の念さめやらず、さくらに後を託して旅立つのでした。

季節は巡って夏となった頃、とらやに寅次郎宛の手紙が届き、リリーは歌手をやめ、小さな店の女将さんになったことが知らされます。
かくして、今回離れ離れになった寅次郎とリリーですが、二人の関係はこれで終わらず、やがて再び巡り会いの機会が訪れるのです・・

見どころ:寅次郎と同じ境遇の歌手のリリーとの初めての出会い。共感し意気投合、再会するも、切ない別れにグッとくる。
人生のキーワード:縁は異なもの味なもの

【第12作 男はつらいよ 私の寅さん】★★★★
1973年/マドンナ:岸惠子/前田武彦

とらや一家が九州旅行へ出かけるところへ、たまたま寅次郎が旅から帰ってきました。自分がのけ者にされた気分で寅次郎はむくれてしまいますが、おいちゃん・おばちゃんへの孝行と説得され、なんとか気は治まり、タコ社長と共に留守番を請け負うことに。

そんな折、寅次郎は小学校時代の親友と再会し家を訪れますが、彼の妹・画家のりつ子との初対面で、寅次郎の失礼な言葉から売り言葉に買い言葉で大ゲンカとなってしまいます。
しかし翌日、とらやにりつ子が謝罪に来ると寅次郎の態度は一変「絵を描く人に悪い人はいないよ」と、コロリとりつ子に惚れてしまい、その後はりつ子に献身、恋に浮かれる寅次郎でした。

りつ子は、かねてから心を寄せていた画家が他の令嬢と結婚するという話を聞き、以来、病のように臥せってしまい、見舞う寅次郎に失恋したことを語ります。が、今度はそれを聞いた寅次郎が恋の病にかかってしまいます。

寅次郎の自分への気持ちを伝え聞いたりつ子は、嬉しいが困る、寅さんとは友達でいたかったと胸の内を明かします。りつ子を思い悩ませてしまったことに気付いた寅次郎は、恋を失い、自責の念と共に再び柴又を旅立つのでした・・

見どころ:画家としてのプライドを持つりつ子と正反対の世界にいる寅次郎との掛け合い
人生のキーワード:自分を分かってほしければ、まず相手の気持ちを思いやろう

【第13作 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ】★★★★
1974年/マドンナ:吉永小百合(2回目の出演)

寅次郎は旅の途中の津和野で偶然歌子と再会し思わぬ話を聞かされます。歌子の結婚を祝福してから2年、苦労の末に結ばれた夫は前年に亡くなり、未亡人として婚家で侘しく暮らしているとのこと。

後ろ髪を引かれながら柴又に戻ってきた寅次郎ですが、歌子を心配するあまり恋やつれ状態になってしまいます。
そんな時、寅次郎との出会いに励まされた歌子が、婚家と縁を切り東京で福祉関係の仕事を見つけたいととらやを訪ねてきたのです。寅次郎は大喜び、歌子は当面とらやに世話になることになり、津和野では見なかった歌子の笑顔に寅次郎は胸を熱くします。

ただ、歌子には気がかりなことが一つありました。夫の葬式にも参列しない父・修吉との確執に悩み実家に戻れないでいたのです。歌子の心情を慮った寅次郎は修吉を訪れ、父親としてどうなのかと修吉に詰め寄ります。

寅次郎の厳しい批判に心を動かされた修吉は、かたくなだった自らを反省し、娘・歌子への愛情を吐露し、歌子も父親に誤り、親子は和解し、居合わせた一同は皆涙ぐむのでした。

しばらくして寅次郎が実家に戻った歌子を訪ねると、伊豆大島に望んでいた職場を見つけ、そこで働くとのこと。
寅次郎は安心する一方、これでお別れかと傷心半分の心を抱え、自分の役目は終わったと、静かに柴又を立ち去るのでした。

見どころ:浴衣姿で縁側に座り夜空の花火を眺める吉永小百合の姿が艶やか!
人生のキーワード:素直に話し合えば心のわだかまりも溶ける

【第14作 男はつらいよ 寅次郎子守唄】★★★★
1974年/マドンナ:十朱幸代/上條恒彦

寅次郎は商売で九州・唐津にやって来ました。港の宿で、赤ん坊を残し女房に逃げられたという男に出会います。寅次郎は酒を飲みながら彼を慰めるのですが、翌朝男は子供を頼みますと置き手紙を残し姿を消してしまったのです。

寅次郎は取り残された赤ん坊と共に柴又に舞い戻ってきます。とらやでは「寅に子供が出来た!」と大騒動に。事情を聴いて誤解は解けたものの、赤ん坊が高熱を出して病院に連れて行ったことで、寅次郎は美人看護婦・京子に一目惚れしてしまいます。
しばらくして、とらやに例の父親が女性同伴で赤ん坊を引き取りに現れ、なんだかんだと一件落着。赤ん坊が去ってしまい寂しがる寅次郎でしたが、京子に慰められ元気を取り戻します。

さくらと寅次郎は京子が通うコーラスグループに誘われ、ついていったまではいいのですが、そこでまたまた寅次郎がグループのリーダー・大川と一悶着起こしてしまいます。
さくらに怒られた寅次郎は、翌日大川のボロアパートを訪ね謝罪し、酒を酌み交わすと見かけによらず気のいい男で二人はすっかり意気投合、酔ったところで彼が京子に好意を持っていると知った寅次郎は恋愛指南を始めるのでした。

寅次郎と大川が酔ってとらやへ帰ってくると、そこには京子の姿が。大川は、寅次郎の恋愛指南を真に受け、酔った勢いで想いを京子に告白します。ひげもじゃで口下手、貧しい大川のプロポーズを、まさか京子が承諾するとは誰も思っていませんでした。
結局、失恋ということになった寅次郎は「顔で笑って心で泣いて」旅立ってゆくのでした。

見どころ:寅次郎が赤ん坊を抱えて奮闘努力。本作より3代目おいちゃん下條正巳さん登場。
人生のキーワード:瓢箪から駒、人生には思いがけないことも起こるものだ

【第15作 男はつらいよ 寅次郎相合い傘】★★★★★
1975年/マドンナ:浅丘ルリ子(2回目の出演)/船越英二

ある日、ひょっこりとリリーがとらやにやってきます。リリーは離婚し再び歌手としてあちこち回っているとのこと、寅次郎の旅先を推し量り去ってゆきます。

その頃、寅次郎は青森で風変わりなサラリーマン・兵頭と出会っていました。彼は地位や財力もある重役でしたが、思い付きで蒸発、自由な旅を満喫しているようでした。

2人で函館に渡ると、偶然にもリリーと再会して大喜び、3人の楽しい珍道中が始まります。小樽に着いた兵頭は初恋の人が未亡人となり子供を育てながら苦労する姿を見て落ち込みます。
そこで、女の生き方について、寅次郎と自立するリリーの意見が対立し、とうとう喧嘩別れしてしまいます。

やがて柴又に帰ってきた寅次郎ですが、リリーとの喧嘩別れを悔やみ沈んでいたところへ、以心伝心、思いがけずリリーが現れ、あっという間によりを戻した二人、相合傘でゆく仲睦まじさは評判になるほどでした。

さくらが思い切って「リリーさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれたらどんなに素敵だろうな」と言うと、リリーから承諾の答えがあり、とらやの人々はざわめきたちます。

そこへ帰ってきた寅次郎は話を聞くも「冗談だろ」とばかり話を流す寅次郎に、リリーは「冗談に決まってるじゃない」と反発し、とらやを去ってしまいます。リリーも「顔で笑って心で泣いて」いたのです。

寅次郎は、フーテンの自分と一緒になっても幸せになれるわけがない、リリーの気持ちを受け止められない自分を知っていたのです。「あいつも俺と同じ渡り鳥よ、この家にしばし羽を休めたまでのことだ」と・・

見どころ:リリーのステージを思い浮かべ、とらや面々の前で、臨場感たっぷりに一人語りする寅さんの独特な語り口調は必見!シリーズ中の傑作名場面!
人生のキーワード:心のままに素直に生きよう

【第16作 男はつらいよ 葛飾立志篇】★★★★
1975年/マドンナ:樫山文枝/小林桂樹/桜田淳子

ある日のこと、とらやに山形から女子高生が寅次郎を訪ねてきます。かつて寅次郎が無一文で行き倒れかけていた時に助けられた、お雪という女性の娘で、彼女が病で亡くなったことが知らされます。

山形へ墓参りに行った寅次郎は、寺の住職から、学がなく男に騙され悲惨な人生を送ったお雪の話を聞かされ、学問の大切さを学び柴又へ戻り、そこで、寅次郎の部屋に下宿している筧礼子に出会います。彼女は御前様の姪で、大学の考古学研究室助手を勤めている女性で、寅次郎は早速、礼子に心惹かれてしまいます。

御前様の頼みで玲子が寅次郞の家庭教師をしてくれることになり喜ぶ寅次郞でしたが、礼子の講義はチンプンカンプン、が、そこは寅次郎、テキヤの口上を絡めて笑いのドタバタ勉強会に。

とらやに礼子の師匠・田所という大学教授がやってきます。大学教授には見えない風体の男性で、寅次郎は無学ながら苦労と経験の積み重ねは人一倍、人の世の理を説く寅次郎流の言葉は痛快にインテリをやり込めてしまいます。

田所は密かに礼子に心を寄せており、酔いに任せラブレターを彼女に渡すのですが、これに思い悩んだ礼子は寅次郞に相談します。
それを知った寅次郞は、学のない自分は身を引くことが礼子のためと、礼子の幸せを祈り旅立ってゆくのでした。しかし、それは寅次郞の早合点、礼子は田所のプロポーズを受け入れなかったのです・・

見どころ:伊達メガネで書籍を抱える寅次郎は爆笑必至!
人生のキーワード:志を持つことの大切さ、青年よ大志を抱け!

【第17作 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け】★★★★★
1976年/マドンナ:太地喜和子/宇野重吉

久しぶりにとらや帰って来た寅次郎、早速内輪ゲンカをして家を飛び出します。憂さ晴らしに一杯飲んでいたところ、無銭飲食でとがめられるみすぼらしい老人を目にして、気の毒に思い助けて家に連れ帰ります。

とらやに一晩やっかいになったその老人は、おいちゃんたちに横柄で、皆からひんしゅくを買います。寅次郎に説教された老人は、お詫びに、と言って紙に一筆、落書きのような絵を描き、これで「いくらかにはなるから」と言って去ってゆきます。

寅次郎は半信半疑で、神保町の古本屋にその絵を持ち込んだところ、7万円と言う高額を提示されびっくりしてしまいます。実はこの老人は、日本画壇の重鎮・池ノ内青観画伯だったのです。

所変わって、寅次郎は播州龍野の旅先で、龍野市に招かれていた青観と再会します。青観と一緒の寅次郎は、市主催の宴席で連日豪遊するうち“ぼたん”というきっぷのよい美しい芸者と親しくなり「いずれ所帯を持とう」などと冗談を言い合うほどの仲に。

寅次郎は柴又に帰るも、龍野の豪遊が思い出され腑抜けているところへ、突然ぼたんが上京してきたのです。訳を訊ねると、コツコツ貯めた200万円を悪い男に投資目的で騙し取られ、取り返しに来たとのこと。
寅次郎たちは憤慨し、経験豊富なタコ社長に助力を頼みますが、法の網をかいくぐった正当な抗弁に泣き寝入りを余儀なくされてしまいます。

思い余った寅次郎は、あることを思いつきます。青観にぼたんの事情を話し、売却できるような絵を描いてほしいと頼みこむのですが、青観は難色を示します。寅次郎は青観の頑固さに暴言を吐いて立ち去ります。

結局、ぼたんは泣き寝入りとなりましたが、寅次郎の熱い気持ちに感激し感謝しながら東京を去ってゆくのでした。
寅次郎は、ぼたんの力になれず肩を落とし、柴又を後に旅立っていくのでした。

その後、龍野を再び訪れた寅次郎を、ぼたんは喜び勇んで家に招き入れます。そこには青観画伯から贈られたという、優に200万円を超えるであろう、素晴らしい牡丹の花の絵が飾ってあったのです。青観には寅次郎の無償の思いやりの心が届いていたのです。

見どころ:芸者ぼたんの粋な着物姿やあっと驚く展開!シリーズ中の傑作!
人生のキーワード:誠意は通ず、徳は天をも動かす

【第18作 男はつらいよ 寅次郎純情詩集】★★★★★
1976年/マドンナ:京マチ子/檀ふみ

旅先から帰ってきた寅次郎は、満男の家庭訪問に訪れた代替講師の雅子先生に一目惚れ。娘ほども年の離れた彼女に好意を抱いた寅次郎を皆で非難し一騒動、寅次郎はとらやを飛び出します。

その後、ふらりと舞い戻った寅次郎の前に、雅子に連れられて彼女の母親・綾がやって来ます。
綾は、柳生のお嬢様と呼ばれる柴又の名門の出身、幼少時代の寅次郎やさくらのことを覚えていて再会を喜びます。

「遊びにいらしてね」と言われ寅次郎は、歳によらず美しい綾の虜になり綾の家に通い詰めるのでした。

長い病院生活を終え、世間知らずな綾は、寅次郎の優しさと笑顔、その奔放さを愛します。ところが、ある日さくらは雅子から、綾が余命幾ばくもない状態と知らされ愕然とするのでした。

とらやに招かれた綾と雅子は温かいもてなしを受けますが、綾の病状を知る雅子とさくらは複雑な心情、死期を知らずに綾へ献身する寅次郎を温かく見守ります。

やがてその時が近づき、寅次郎も綾の死期を知らされます。「人はなぜ死ぬの?」という綾の問いに、寅次郎は顔で笑って心で泣いて、道化役に徹し綾を慰めます。
綾が亡くなり、雅子は「お母様は寂しい生涯だったけれど、最後に寅さんがそばにいてくれて、どんなに幸せだったことか」と寅次郎へ感謝の気持ちを伝えます。

悲劇に終わった恋に寅次郎は寂しく柴又を後にします。綾が元気だった時に店をやるならどんな店がふさわしいかという話題に、さくらとの別れ際、寅次郎は言います「花屋よ。あの奥さんが花の中に座っていたら似合うぞ」と。

見どころ:昭和の大女優・京マチ子の無邪気なお嬢様気質の演技が印象的。
人生のキーワード:死滅は世の常、人の常。今を一生懸命生きることが大切!

【第19作 男はつらいよ 寅次郎と殿様】★★★★
1977年/マドンナ:真野響子/嵐寛寿郎/三木のり平

旅先の伊予大洲市の旅館で寂しげな一人の女性に出会い、食事をふるまい話を交わします。聞けば彼女は東京葛飾の堀切に住んでいるとのこと、寅次郎も葛飾柴又のとらやが実家と告げるのでした。

翌日寅次郎は、大洲城で偶然に知り合った老人の家に招待されます。一風変わった老人は大洲の殿様の子孫・藤堂久宗で、朗らかな寅次郞のことをすっかり気に入り、寅次郎が東京人だと知った殿様は、ある頼みごとをします。
東京で亡くなったという次男の話で、かつて身分違いの結婚を許さず勘当した次男の嫁・鞠子を探してほしいと寅次郎に頼みます。顔も知らない嫁だが会って謝りたいと言うのです。

寅次郎は酒の勢いで安請け合いしてしまいますが、ことはそう簡単ではありません。東京へ戻りとらやの皆に協力を求めるも、手がかりも無く困り果てた寅次郎、いっそ逃げだそう、とするところへ、偶然にも大洲市で出会った女性が寅次郞を訪ねて現れます。
彼女の名前は鞠子、大洲出身の夫と死に別れ、夫の姓は「藤堂」と聞かされ、彼女こそ探していた女性だと分かります。

例によって寅次郎は鞠子に惚れてしまうのですが、鞠子には再婚を考えている同僚がいることを告げられ、寅次郎またまた失恋の痛手を被ることに・・

見どころ:浮世離れした殿様と庶民の寅次郎のギャップに笑える!
人生のキーワード:合縁奇縁、出会いは一期一会の物語

【第20作 男はつらいよ 寅次郎頑張れ!】★★★★
1977年/マドンナ:藤村志保/中村雅俊/大竹しのぶ

とらやの二階に間借りしている良介青年、寅次郎が旅から帰ると、押し売りと間違えた彼は警察に通報し一騒動が勃発。怒る寅次郎だったが、パチンコ店で一緒になった良介が玉をあげて、これが大当たり、二人は意気投合します。

ある日、寅次郎は近所の食堂で働く若い女性・幸子に良介が好意を持っていることに気付き、その想いを叶えさせようと寅次郎は良介に恋愛指南を始めます。「アイ・ラブ・ユー。できるか青年?」

しかし、良介はデートの際にうまく気持ちを伝えらず、失恋したと思い込んでしまい、絶望した良介はガス自殺を図ろうとし、最後に一服とタバコに火を付けたとたん、とらやの2階は大爆発!

警察の取り調べ後、いたたまれなくなった良介は実家・長崎の平戸に帰郷してしまいます。
寅次郎は良介を心配し平戸まで追いかけて行ったのですが、良介の出戻りの姉・藤子に会い例の如く惚れてしまい、藤子の土産店を手伝いながらそこに留まることに。

幸子がとらやに良介を訪ねてやってきたので、さくらは事の顛末を告げ、幸子の良介に対する気持ちを確認します。さくらからの連絡を受け、喜んだ良介たちは東京に戻り、二人はめでたく結婚することになりました。

寅次郎は藤子について平戸へもどるつもりでしたが、披露宴の陰で、良介と藤子のうちわ話を耳にします。藤子は寅次郎の気持ちを利用しているだけで、恋愛感情は一切無いことを聞いてしまったのです。寅次郎はがっくりと肩を落とし、翌日、さくらだけに別れを告げてそっと旅立つのでした。

見どころ:「アイ・ラブ・ユー。できるか青年?」寅次郎の恋愛コーチぶりと、とらや大爆発!
人生のキーワード:人生に挫折は付き物、環境が変われば道も見えてくる

男はつらいよ/ハイビスカス

【第21作 男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく】★★★★
1978年/マドンナ:木の実ナナ/武田鉄矢

旅先の熊本・田の原温泉でたまたま出会った青年・留吉の失恋を慰める寅次郎でしたが、宿賃も払えず、とうとうさくらに連絡、はるばる熊本まで迎えに来てもらうという失態ぶり。

反省するべくとらやで真面目に店を手伝っていた寅次郎の前に、さくらの学友で松竹歌劇団(SKD)の花形スター・紅奈々子が店を訪ねてきます。寅次郎は、奈々子にすっかり魅了され、反省はどこへやら、レビュー観覧に夢中になります。
そんな折、農村関連のシンポジウムに参加するため留吉が上京、レビューを見たいという留吉を口実にレビュー三昧、奈々子と親しくなってゆきます。

ある日、奈々子がとらやに来て、好きな男性と結婚するか、踊りの仕事を辞めるかと悩んでいると言います。寅次郎は雨の中、奈々子を家まで送りますが、彼女に請われ二人で酒を飲み語り合っていると、そこへ奈々子の交際相手が訪ねてきます。寅次郞は窓越しに、二人が雨の中で抱き合うシーンを目撃してしまいます。

その後、奈々子からさくらに結婚を決めたことが電話で伝えられます。寅次郞は、奈々子の幸せを願いつつ、未練を残して旅に出るのでした。
奈々子の最後の舞台「夏のおどり」公演を、寅次郎は後方で気づかれぬように観覧いたのですが、途中でそっと退席、これにて恋も終わりだと・・

見どころ:木の実ナナさんのはまり役、華やかな歌劇団ショー。&寅さんと方言丸出しの田舎青年を演じる武田鉄矢さんのコンビは爆笑もの!
人生のキーワード:人生の岐路では選択を間違えるな

【第22作 男はつらいよ 噂の寅次郎】★★★★
1978年/マドンナ:大原麗子/志村喬/泉ピン子

信州を旅する寅次郎は、すれちがった雲水から「女難の相あり」と告げられます。
木曾に向かうバスで、偶然にも博の父・飈一郎と出会い温泉宿を共にし、飈一郎から「いくら美人でも死んでしまえば骸骨」と人間のはかなさを聞かされ、女難の相を気にしながら柴又に帰ってきます。

そこへ職安の紹介でとらやで働き始めた荒川早苗と顔を合わせ、その美しさに寅次郎は一目で恋に落ちてしまいます。現在別居中で離婚を考えていると聞き、寅次郎は彼女を励ましますが、寅次郎の優しすぎる心遣いに早苗は「寅さん、好きよ」とまで言葉に出したので、寅次郎が誤解して、またまた傷つくことをとらや一家の皆は心配するのでした。

しばらくして早苗の引っ越しの手伝いに来た寅次郎は、同じく手伝いに来ていた、早苗の兄貴分という従兄で教師の添田肇という朴訥な男性を見かけます。彼もまた密かに早苗を慕っているのではないかと寅次郎は感じるのでした。

やがて添田がとらやに早苗を訪ねて来ます。彼は外出している早苗をしばらく待っていましたが戻って来ないので、寅次郎に早苗への伝言と預金通帳を託し立ち去ってしまいます。伝言とは「故郷の小樽に就職が決まったので当分会えないけど元気でいてほしい」という内容で、預金通帳には100万円という残高が記載されていました。

その時ちょうど戻って来た早苗、寅次郎は不器用な添田の早苗への気持ちを一瞬で察し、早苗に彼を追いかけるよう背中を押してやります。
早苗はためらいながらも、駅に向かって駈けだします。寅次郎は人情家、ライバルを助ける形で自らの恋を手放したのです。そしてさくらたちの引き止めにもかかわらず旅立ってゆくのでした。

見どころ:秋の信州路の映像美。マドンナ大原麗子の妖艶な魅力。
人生のキーワード:「いくら美人でも死んじまえばみな骸骨」人生とは儚いものよ

【第23作 男はつらいよ 翔んでる寅次郎】★★★★
1979年/マドンナ:桃井かおり/布施明/湯原昌幸

北海道を旅ゆく途中、寅次郎は車で一人旅しているひとみという年頃の女性に声をかけられます。親心で心配する寅次郎でしたが、案の定、悪漢に襲われそうになって逃げる所を寅次郎が救い、その後は二人で旅を続けることに。

話を聞くと、ひとみは田園調布のお嬢さん、訳あり結婚でマリッジブルーの一人旅とのこと。翌日は戻るというひとみに、寅次郎は葛飾柴又とらやのことを教え別れます。

ところが、一流ホテルでの結婚式当日、ひとみは式場からタクシーで脱走、ちょうどとらやに帰ってきた寅次郎の前に、ひとみがウェディングドレスのまま駆け込んできたので、皆ビックリ仰天。

ひとみは、大勢の人に迷惑をかけたことを反省しつつも、幸せな気分になれないと、寅次郎を頼ります。そんな折、新郎の邦男がひとみを訪ねてくるのですが、ひとみは「ごめんね」と謝るだけで身を引いてしまいます。
肩を落とす邦男を寅次郎は励し、失恋話を肴に邦男と酒を酌み交わします。

寅次郎はひとみに、邦男がいかにひとみのことを想っているかを伝えます。邦男の気持ちを代弁する寅次郎の言葉がひとみの心を動かします。結婚し損なった二人でしたが、時間をおいて新たな恋愛を育み、小さくも心温まる結婚式を挙げることができました。

邦男のギターの弾き語りに託した愛の歌、きらびやかなものに惑わされないで、君は信じるものに向かい飛び立つんだ、僕は止まり木ぐらいにはなれるだろう、いつまでもいつまでも変わることない大切な何かを見つけてほしい・・

見どころ:結婚式で披露する布施明の弾き語り。
人生のキーワード:人生は紆余曲折、きらびやかなものに惑わされないで。

【第24作 男はつらいよ 寅次郎春の夢】★★★★
1979年/マドンナ:香川京子

ある日のこと、帝釈天の御前様が、境内で落ち込んでいた外国人を事情がありそうだと、英語が分かりそうなさくらの元に連れてきます。たまたまとらやに来ていた翻訳家の圭子が通訳し、彼はマイケル・ジョーダンといい、アリゾナから来日しビタミン剤のセールスで日本中を回っているものの、うまくいかず困っていたといいます。
とらやの人々は、気の毒なマイケルにとらやの2階を提供することにしました。

親切なとらやの人々とマイケルは次第に親しくなりますが、マイケルは優しく美しいさくらに、人妻と知りつつ恋心を抱いてしまいます。
そんなところへ舞い戻った寅次郎、アメリカもマイケルも気に入らず、周囲を困らせ険悪な雰囲気に発展します。しかし、寅次郎がさくらの兄と知り、申し訳なく出て行こうとするマイケルを寅次郎は引き止め二人で飲みに行き、文化の違いを乗り越えた友情が生まれます。

とらやを訪れた翻訳家の圭子と出会った寅次郎は、彼女が未亡人と知り、例のごとく一目惚れ、頻繁に圭子の家を訪れるようになり、あれこれと献身的な奉仕に務めます。

日本でのビタミン剤の販売を諦めたマイケルは、ついにアメリカに帰ることにしたのですが、最後にさくらに「アイラブユー」と告白してしまいます。さくらは、拙い英語ながら毅然として「This is impossible」と答えます。

一方、圭子の家を訪れた寅次郎は、圭子の知人で船長だと言う男性に出会い、間もなく圭子と結婚する予定であることを知らされます。
失恋した者同士、寅次郎とマイケルは飲み屋でお互いの傷心を慰め合い、最後の別れを惜しみます。

見どころ:想いを胸に秘め目で語るのは日本人、かたや想いをストレートに打ち明けるのはアメリカ人気質、文化の違いがコミカルに描かれた、寅さんとマイケルのほろ苦い失恋物語。
人生のキーワード:恋は目だけでは語れない、かといって言葉にすれば通ずるというものでもない。総じて、縁や運命、赤い糸に依るところが大きいとも言える。

【第25作 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花】★★★★★
1980年/マドンナ:浅丘ルリ子(3回目の出演)

久しぶりに寅次郎が柴又に帰ってきたところへ、リリーから速達が届き、沖縄で病気に倒れ入院、生きてるうちに「もういっぺん寅さんに会いたかった」と書かれていました。あわてて沖縄に飛ぼうとするも飛行機が苦手な寅次郎、しかし、きれいなスチュワーデスに惹かれて何とか搭乗し沖縄にやってきます。

リリーは涙を流して喜び、周りの病人も寅次郎の笑い話でパッと明るく元気になるのでした。退院後、寅次郎とリリーは漁師町で一緒に生活を始めます。別々の部屋で寝起きしているものの、周りからは夫婦とみなされるほど心が通い合う暮らしぶりでした。

リリーの口からは寅次郎との結婚をほのめかす言葉が聞こえてくるのですが、寅次郎はのらりくらりとリリーの言葉をかわしはっきりしません。リリーは苛立ち、ついに大喧嘩の末、書き置きを残して去ってしまいます。

寅次郎は慌てて追いかけますが、遠い沖縄からの飲まず食わずの旅を続け、なんとか柴又駅にたどり着いたところで行き倒れになり大騒ぎ。

数日後、とらやを訪ねてきたリリーと再会した寅次郎は大いに喜び、二人で沖縄の思い出話を語り合います。
「あの時は幸せだった」「俺と所帯を持つか」「私たち、夢を見てたのよ」どんな言葉もプライドと照れで冗談にしてしまう二人、本当は好き合っている仲なのに、今回もまた結ばれることなく柴又駅で別れることに、しかし、再会を期して・・

見どころ:常夏の楽園沖縄の風景。寅次郎とリリーの蜜月。
人生のキーワード:プライドは時に邪魔者、本音は言うべ時に言わねば後の祭り。

【第26作 男はつらいよ 寅次郎かもめ歌】★★★★
1980年/マドンナ:伊藤蘭

寅次郎は、商売で北海道江差に来ていたところ、テキヤ仲間の寂しい死を聞き、線香の一本もあげようと奥尻島を訪ね、そこで忘れ形見の娘すみれと出会います。幼くして母とも別れ、頼る者のいない娘を寅次郎は哀れみ、働きながら定時制高校で学びたいと言うすみれを東京へ連れて戻ります。

すみれは、寅次郎やさくら、博たち皆の応援で、就職の世話や定時制高校への入学も叶い、とらやに住みながら学校に通い始めます。寅次郎は、すみれの通う教室へ毎晩のように顔を出し人気者に、とらや一家もすみれを見守ります。

ある日、すみれの友人と名乗る男・貞夫が現れ、登校してきたすみれと再会します。故郷で恋人同士だった二人はちょっとした行き違いから喧嘩別れをしたままになっていたのですが、一緒に暮らしたいという貞夫の真面目な気持ちに、すみれもまた貞夫への想いを告白し二人は抱き合うのでした。

深夜になっても学校から戻らぬすみれをとらやの皆が心配する中、すみれは翌朝になってやっと戻ってきました。すみれは心配をかけたことを皆に謝りますが、男と一緒にいた事を知り、寅次郎はカンカンになって怒りだします。

しかし、泣きながら謝り、貞夫と結婚する決意を聞いた寅次郎は、親心か恋心か、すみれへの想いを断ち切り、新たな旅に出るべく身支度を始めるのでした。怒りながら、それでも、別れ際にすみれを励ます言葉を残し、とらやを出て行くのでした。

見どころ:当時のトップアイドル、キャンディーズのメンバー・伊藤蘭さんの好演。かもめ歌(江差追分)が心に染みる。
人生のキーワード:困っている人に手を差し伸べよう、人助けは徳行。

【第27作 男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎】★★★★★
1981年/マドンナ:松坂慶子

瀬戸内海の小島、寅次郎は、育ての親という祖母の墓参りをする女性に出会います。ふみという名で、大阪で働いているという、その女性に心惹かれます。
寅さん流でナンパし島の波止場で一旦は別れるも、大阪は石切神社で商売をしているところへ、芸者姿のふみが立ち寄り、二人は再会に沸き立ち、芸者仲間と夜まで遊び歩くのでした。

親しくなった寅次郎とふみは、ある日宝山寺に出かけ、絵馬に書いた願い事から、ふみには生き別れの弟がいることを知ります。寅次郎はふみを弟に会わせようと世話をやき、弟の勤務先の運送会社を訪ねたのですが、残念なことに彼はつい前月に急病で亡くなっていたのでした。

寅次郎とふみは、弟のアパートで彼の恋人に会い、ふみにとても会いたがっていたこと知らされます。その後ふみは仕事に向かいますが、悲しみが募り身が入らず、寅次郎の宿泊先の宿を訪ねて来るのでした。

寅次郎は、酔ったふみに寄り添い慰めるのでしたが「今晩ここに泊めてほしい」と言うふみに戸惑い、そそくさと別の部屋へ移ってしまいます。翌朝、ふみは置手紙を残し既に部屋を去っていました。「これから、どう生きて行くか考えてみます。寅さんお幸せに。さようなら」と。

芸者ふみを振ったのか、振られたのか、寅次郎は寂しく故郷柴又のとらやへ帰ってきました。
ところが、しばらくして、そのふみがとらやを訪ねてきました。喜んだ寅次郎でしたが、しかし、ふみは以前から交際していた板前と結婚し対馬に移り住むと言います。

天国から地獄、寅次郎は恋を失い嘆くことしきり、その日のうちにとらやを去り旅立ってゆくのでした。

見どころ:人気絶頂の松坂慶子さん、芸者姿の色っぽさ、美しいこと!芦屋雁之助さんや大村崑さんたち関西喜劇人が登場。子役の2代目満男・吉岡秀隆が本作より出演しています。
人生のキーワード:一緒に生きる人をみつけ幸せになろう!家族は大切に!

【第28作 男はつらいよ 寅次郎紙風船】★★★★
1981年/マドンナ:音無美紀子/岸本加世子/地井武男/小沢昭一

大分県・夜明にやってきた寅次郎。旅の途中、テキヤ仲間・常三郎の若い妻・光枝と出会い、夫が重病だと聞かされます。見舞いに行った寅次郎は常三郎から思いがけない相談を持ちかけられます。

自分は病でそう長くない、もし自分が死んだら光枝を妻としてもらってくれという頼みでした。寅次郎は、驚きますが病人の手前、その言葉を受け入れます。見送ってくれた光枝に、寅次郎は、何か困ったことがあれば柴又のとらやに連絡するよう言い伝えます。

しばらくして寅次郎のもとに光枝から手紙が届きます。あの後間もなく常三郎は亡くなり、今は東京・本郷の旅館で働いているとのことでした。寅次郎は光枝を心配し、その旅館に光枝を訪ね、とらやに来るように提案すると、光枝も寅次郎の親切に嬉しそうな感触。例によって寅次郎の錯覚と思い込みが始まります。

寅次郎は帰宅後、「俺、所帯持つかも知れない」ととらやの人たちに話し、まさかのワイシャツ・ネクタイを装い就職活動を始めたのです。
ところが、とらやを訪ねてきた光枝から、亡くなる前の夫との約束は本気なのかと訊ねられ、例によって、本心を飲み込んでしまう寅次郎、「病人の言うことだからよ、適当に相づち打ったのよ」と、はぐらかすような言葉を口にしてしまうのでした。

光枝は「じゃあ、よかった。安心した、寅さんの気持ち聞いて」と。このやりとりで、光枝の気持ちは自分には無いことを悟った寅次郎は、またも失恋、とらやを後に旅に出るのでした。
直後、面接を受けた会社からの不採用通知が届きます・・

見どころ:テキ屋家業の哀れな最後、哀愁感漂うマドンナ、もの悲しい晩秋の風景、熟年に入ろうかという寅次郎の笑いと悲哀の物語。
人生のキーワード:北島三郎「喧嘩辰」より「殺したいほど惚れてはいたが、指も触れずに別れたぜ、浪花節だと笑っておくれ、ケチな情けに生きるより、俺は仁義を抱いて死ぬ」

【第29作 男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋】★★★★
1982年/マドンナ:いしだあゆみ/片岡仁左衛門/柄本明

京都へ来ていた寅次郎は、下駄の鼻緒を直してあげた縁で、人間国宝の陶芸家・加納作次郎に気に入られその自宅へやってきます。工房に出入りするうち、住み込みで働く女性かがりと出会い、例の如く惚れてしまいます。

ある日、寅次郎が工房を訪れると、かがりの姿は消えていました。かがりとつきあっていた外弟子の男性が他の女性と結婚することになったため実家に帰ったと知らされます。

がっかりして風の吹くまま旅に出るという寅次郎に、かがりを心配する加納は「その風、丹後の方に向いて吹かんやろか」と、かがりの様子を知らせてほしいと頼みます。そして感謝の気持ちだと、自作の名器を寅次郎に手渡します。

寅次郎はかがりを訪ね丹後まで行ったのですが、帰りの船がなくなり、かがりの家に泊めてもらうことになりました。寂しいかがりは誠実な寅次郎に慰められ寄り添いますが、寅次郎はかがりに魅惑されながらも緊張のあまり消極的になってしまいます。

翌日そそくさと、とらやへ帰った寅次郎でしたが、かがりのことを忘れられず恋の病の如く寝込んでしまいます。そんなところへ、かがりが友達と一緒に訪ねてきたのです。

数日後、寅次郎とかがりは鎌倉へデートへ行く約束をしますが、自信が持てない寅次郎はいやがる満男を無理やり同伴させることに。思ったとおり寅次郎は緊張していつもの調子が出ず、残念な様子のかがりを、そのまま見送ることに・・寅次郎は、またまたの失恋に一人嘆きながら旅に出るのでした。

後日、加納の内弟子がとらやを訪ねてきて、個展のため、加納が寅次郎に贈った茶碗を借り受けたいと申し出ます。寅次郎が持ち帰ったその茶碗が人間国宝の陶芸家・加納作次郎の名作と知らないとらやの人たちは、たこ社長に灰皿として使わせていたという落ちにビックリ!

またまた後日、寅次郎が彦根城下で加納作次郎の名をかたって陶器の商売をしていたところ、たまたま彦根に来ていた加納作次郎と再会し苦笑い!

見どころ:しっとりと陰のあるマドンナ、いしだあゆみさんに迫られ、寅次郎ならずとも、魅了されます。人間国宝の陶芸家と親しくなり、彼の作品の価値を知らずにぞんざいに扱う寅次郎に笑える。
人生のキーワード:価値観は人それぞれ。猫に小判・豚に真珠

【第30作 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎】★★★★★
1982年/マドンナ:田中裕子/沢田研二

大分・湯平温泉にやってきた寅次郎。東京の動物園でチンパンジーの飼育係を仕事としている三郎青年に出会います。三郎は亡くなった母親を生まれ故郷に埋葬しようと大分へ来ていたのです。誠実な三郎青年の話を聞いて寅次郎は、法事の手伝いをすることにしました。

たまたま同宿の縁で、東京から旅行中の螢子とゆかりにも法事に参列してもらったことで親しくなった四人は、三郎の運転で観光を楽しむのでした。

大分での別れ際、三郎は螢子に「僕とつきあってください」と唐突に声を出します。螢子は戸惑うばかり。寅次郎は真面目すぎる三郎を見て笑い、そんな時は「東京へ帰ったらもういっぺん顔が見たいな」とでも言えばいいのにとアドバイスをします。なるほどと、感心した三郎は、寅次郎を自分の車に乗せて柴又まで送り届けます。

寅次郎は三郎に螢子との仲をよろしくと頼まれるのですが、実は寅次郎も螢子に好意を抱いていたので複雑な心境です。しかし、誠実で不器用な三郎のために、寅次郎は彼の気持ちに応えようとするのでした。

寅次郎が螢子に三郎の想いを伝えますが、螢子の返事はNO。理由は二枚目過ぎるというものでした。それでも寅次郎は何とか二人の再会を設定したのですが、退屈しない寅次郎の話と違い、三郎はチンパンジーの話題オンリーで螢子との会話は弾みません。

デートは重ねますが、三郎との未来に不安を抱く螢子に、寅次郎は口下手な三郎に代わりその想いを一生懸命代弁します。三郎の気持ちは伝わりましたが、螢子は三郎から直接愛の言葉を聞きたかったのです。
螢子は寅次郎に背中を押され三郎に会いに行き、そして動物園の観覧車の中で、三郎はついに螢子に告白、二人は結ばれることに。

寅次郎は、顔で笑って心で泣いて「やっぱり二枚目はいいなー・・」と言葉を残し旅だってゆくのでした。

見どころ:当時絶大な人気を誇るスター沢田研二がゲスト出演。寅さんとジュリーは微妙な三角関係、顔で笑って心で泣いて、寅次郎は恋のキューピッド役を担うことに。
人生のキーワード:瓢箪から駒。ジュリーと田中裕子の二人は劇中で結婚、本作のラブシーンがきっかけか、後に本当に結婚したのです!

男はつらいよ/ローカル線

【第31作 男はつらいよ 旅と女と寅次郎】★★★★★
1983年/マドンナ:都はるみ

新潟の出雲崎までやって来た寅次郎、海の向こうの佐渡島に渡ってみたくなります。漁船の船頭に一緒に乗せてくれないかと頼むところへ、近くにいたワケありの女性からも同乗させてほしいと頼まれます。

その女性が演歌の女王・京はるみと気づかない寅次郎は快く同舟し、佐渡に着いてからも民宿で酒を酌み交わし親しくなってゆきます。京はるみは過密なスケジュールと失恋の傷心が重なり、突然思い立って現実から逃避してきたのでした。

寅次郎は民宿のおばあちゃんから彼女が京はるみだと教えられますが、はるみの心情を察した寅次郎は知らない振りを通すことにします。翌日、寅次郎とはるみは時間に縛られることなく自由気ままに佐渡を回り楽しみます。寅次郎と一緒ののんびりとした旅は、はるみの心を癒してゆきます。

フェリー乗り場の近くまで来たところで、はるみは、追いかけてきたプロダクションの社長らと出会います。はるみは寅次郎がスター歌手と知らないふりをして自分を励ましてくれていたことに感謝し、寅次郎との旅に未練を残しながら、元の世界に戻ってゆくのでした。

とらやへ戻った寅次郎は演歌「涙の連絡船」を聞きながら落ち込み状態でしたが、そんなある日、京はるみが突如とらやを訪れ、柴又は騒然となります。はるみは旅のお礼にと寅次郎にリサイタルの招待券を手渡し、同時に恋人と復縁できたことを告げるのでした。ガックリと肩を落とす寅次郎。
はるみは集った人々に応えようと「アンコ椿は恋の花」を歌い上げるのでした。

その夜、寅次郎はリサイタルの切符をさくらに渡し、当日花束を届けてほしいと頼み、旅立ってゆくのでした。

見どころ:劇中、寅さんとのアカペラデュエットによる「矢切の渡し」「佐渡おけさ」、そして「アンコ椿は恋の花」などの歌唱シーンが楽しい。
人生のキーワード:非日常の体験は心身のリフレッシュ

【第32作 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎】★★★★★
1983年/マドンナ:竹下景子/松村達雄/中井貴一/杉田かおる

備中高梁の地で博の父の墓参りをしていたところ、寺の和尚と出会い意気投合し寺に泊めてもらうことに。そこで出会った出戻りの娘・朋子に一目惚れしてしまいます。

二日酔いで法事に出向けなくなってしまった住職に替わり、なんとお坊さん役を買って出た寅次郎は、持ち前の人生話を法話に生かし、ニセ坊主どころか参列者の賛辞を得て、まんまと寺に住みついてしまうことに。

そんな折、さくらたち一家は博の父の三回忌のためにこの菩提寺に集まりますが、法事が始まり、坊主姿の寅次郎に気付きびっくり仰天するのでした!

さて、寺の後継者となるべき長男の一道が、大学をやめ東京の写真スタジオで働くといい、和尚は勘当して追い出してしまいます。一道は追いかける恋人ひろみを残し、東京へ行ってしまいます。

寅次郎は、朋子の再婚相手として町で噂になっていました。和尚が朋子に「寅さんを婿養子に貰うか。寅さんみたいな人がええと言っとったろ」との言葉に対し満更でもない風情の朋子を目の当たりにした寅次郎は、翌朝、書き置きを残して東京に向かいます。朋子の婿となるにふさわしい僧侶となるべく、帝釈天の御前様のもとで修行しようと思ったのです。が・・

そんな時、ひろみが一道を訪ねて上京し、とらやで二人は再会を果たします。一道の件を口実に朋子が寅次郎に会いにやってきます。ひとしきり雑談をするのですが、二人きりになるとそわそわと落ち着かない寅次郎、後はさくらに任せ、柴又駅まで朋子を送らせます。

発車間際にやって来た寅次郎に、朋子は結婚をほのめかしますが、寅次郎は朋子の気持ちに気付きながら笑ってごまかしてしまいます。朋子は悲しげに去っていき、そして寅次郎も、いざとなると怖気づく自分を省みながら、また柴又を後に旅に出るのでした。

見どころ:ノリノリで坊さんに変身した寅次郎、法事に訪れたさくらと博へのドッキリ!爆笑の連続。
人生のキーワード:芸は身を助ける。

【第33作 男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎】★★★★
1984年/マドンナ:中原理恵/渡瀬恒彦

北海道を旅行く寅次郎は、釧路で風子というフーテン娘に出会います。風子は理容師の免許を持っているのですが、トラブルを起こしがちな性格で、寅次郎は自分に重ね意気投合、風子は伯母を頼って根室へ行く所で、寅次郎は一緒に旅をすることになりました。

風子は、寅次郎の楽しい話に打ち解けて、一緒に気ままな旅をしたいと言い出しますが、寅次郎は、フーテンを抜け出せない自分の人生を省みて、一生懸命働いて真面目で正直な男と所帯を持って幸せに暮らすようしみじみ諭しますが、しかし風子は、自分はまだ若いから、いろいろ経験したいと反発します。

寅次郎が仕事で去った後、風子は寂しさから、風子に声をかけたオートバイサーカスの団員・トニーと親しくなってゆき、そして東京に行くトニーを追いかけて上京するのでした。

寅次郎は風子のことを心配しながら沈んだ気分で柴又に戻ってきていました。そこにトニーが、同棲している風子寝込んで、寅次郎に会いたがっていると伝えにやって来たのです。

寅次郎の心中は穏やかではありません。風子を迎えに行きとらやに連れ帰り温かく受け入れます。寅次郎は意を決してトニーを訪ね、風子は堅気として幸せになれる女性だから、どうか手を引いてほしいと頼みます。

しかし、トニーが東京を離れると聞いた風子は彼を追いかけたい気持ちが募り、寅次郎が止めるのも聞かず「自分の問題に口を出さないでほしい」と言い、とらやを飛び出していくのでした。
結局、大失恋で幕引きとなり、寅次郎は新たな旅の空をゆくのでした・・

しばらくして、さくらのもとに風子から手紙が届きます。やはりトニーとうまくいかず、北海道の伯母のもとで、真面目だけが取り柄の男性と結婚することになったとの知らせで、結婚式に呼ばれたさくら一家が北海道に行って目撃したのは、風子の幸せを祝福しようとやってきた寅次郎が、ヒグマに追われながら山越えしてくる姿でした。

見どころ:ラストの思いがけないハプニング!風子の結婚式にヒグマに追われながら山越えしてくる寅次郎。
人生のキーワード:恋は盲目。しかし、経験者の言には耳を傾けよう。

【第34作 男はつらいよ 寅次郎真実一路】★★★★
1984年/マドンナ:大原麗子/米倉斉加年

柴又に帰ってきた寅次郎は、タコ社長と娘あけみとの喧嘩に巻き込まれ大げんかの末、憂さ晴らしに焼き鳥屋で飲み始めたが、持ち合わせがないことに気付き慌てます。
たまたま隣り合わせたサラリーマン富永は、寅次郎を気の毒に思い助けてくれたことで意気投合、お互いの身の上話で二人は泥酔、深夜につくば市にある富永の自宅へ辿り着きます。

翌朝目覚めた寅次郎は、清楚で美しい富永の妻ふじ子に気付きます。富永は朝早く家を出て夜遅く帰る遠距離通勤で、ほとんどの時間を仕事に費やす生活をしているとのこと。ふじ子から手厚いもてなしを受け、寅次郎は人妻であるにもかかわらずふじ子に想いを寄せてしまいます。

数日後、富永は過労によるストレスのためか出勤途中に失踪したらしいとふじ子から知らされると、寅次郎はことの善後策を相談するため、ふじ子の元にすっとんで行きます。
数日後、富永の郷里の鹿児島から富永の目撃情報が伝えられ、ふじ子と共に捜索の旅に出かけますが、あちこち回っても、結局、富永を見つけられないまま、ふじ子と別れ、柴又へと戻った寅次郎は、食事もとらず鬱々とした時間を過ごします。

ふじ子を想うあまり、心のどこかで富永が戻らない事を願う自分に寅次郎は葛藤します。「自分の醜さに苦しむ人間はもう醜くありません」と言う博の慰めに感謝しつつも、ふじ子を忘れようと旅に出ようとします。

するとそこに、無精ひげを生やした富永がひょっこり現れます。「生きてたのか!」嬉しさと同時に内心落胆する寅次郎、が、すぐ我に返り、ふじ子の元へ急行します。
富永の無事に涙を流して喜び合う家族を見届けた寅次郎は、くるりと背を向けそのまま旅立つのでした。

見どころ:遠距離通勤によるサラリーマンの悩みやストレス、家族生活の崩壊が描かれます。在宅ワークやIターン・Uターンによる田舎暮らしなど、働き方の選択肢が多い現代社会と比較してみたい。
人生のキーワード:禁断の実を欲すれば身の破滅を招く。

【第35作 男はつらいよ 寅次郎恋愛塾】★★★★★
1985年/マドンナ:樋口可南子/平田満

長崎の五島列島を旅していた寅次郎は、道で転んだお婆さんを助けた縁で、その家に泊めてもらったのですが、しかし、お婆さんは具合が悪くなり未明に急死してしまいます。寅次郎はお婆さんの最期に立ち会い、墓掘りまですることに。

東京から駆けつけた孫娘・若菜に事情を伝え、皆と一緒にお婆さんを弔います。寅次郎は天涯孤独な若菜に同情心と共に淡い恋心も抱きながら東京柴又に帰ります。

若菜から届いた礼状を受け取ると、寅次郎は喜び勇んで彼女のアパートを訪ねてゆきます。そこで、裁判官を目指し司法試験の勉強をする堅物の青年・民夫と知り合うのですが、どうやら民夫は若菜に密かに想いを寄せているようでした。

彼は、自分の感情を素直に表せない真面目で堅い人なので、からかったりしないでほしいと若菜は寅次郎に言います。そんな若菜の言葉に寅次郎は心中複雑な思いを抱きます。が、若菜の心が民夫に傾いていることを悟ると、自分の恋を封印して民夫と若菜の間を取り持とうと決心します。

寅次郎は、恋愛経験ゼロの民夫を呼び出して恋愛指南を始めます。初デートもうまくいき、民夫は若菜の部屋に誘われます。若菜は自分の身の上を話し、こんな自分でもよければ交際したいと告白します。しかし、初デートに緊張し過ぎて前夜一睡もしていなかった民夫は、若菜の話の途中で居眠ってしまい、若菜のひんしゅくを買ってしまいます。

民夫は、この大失敗に気を落とし書き置きを残し、郷里の秋田に帰り行方不明になってしまいます。そんな状況を聞いた若菜は心配して寅次郎と共に秋田に向かい民夫を探し回ります。
そしてやっと、夏の八幡平スキー場、リフトの上から民夫を無事に見つけ出し、寅次郎の協力で若菜の想いが民夫に伝えられ一件落着となりました。

見どころ:海と緑が美しい長崎県五島列島の映像。上五島の天主堂を背景に、冒頭では寅次郎とマドンナの出会いがあり、ラストでは寅次郎の仕事仲間、ポンシュウとの掛け合いで笑いのうちに締めくくられます。
人生のキーワード:反省・懺悔することで進むべき道も変わる。神はいつでも、そうしたあなたを見守っている。

【第36作 男はつらいよ 柴又より愛をこめて】★★★★
1985年/マドンナ:栗原小巻(2回目の出演)

タコ社長の娘・あけみが夫婦生活に悩みを抱え家出、1ヶ月ほど経ち、伊豆の下田にいると連絡があったものの帰ってくる様子は無く、ちょうど旅から帰ってきた寅次郎が迎えに行くことになりました。しかし、もう少し自由でいたいあけみの希望で、寅次郎は海の向こうの式根島まで一緒に足を運ぶことに。

島へ渡る船の中で、島の小学校の同窓会に出席するという青年たちに出会います。彼らを桟橋で出迎えた美しい真知子先生の姿に、寅次郎はいっぺんに恋に落ちてしまいます。青年たちの仲間のように教え子の一人になりすまし浮かれてはしゃぎ回ります。

翌日、青年たちは帰りますが、同じ東京の下町出身で柴又帝釈天をよく知っているという真知子は寅次郎と親しく語り合います。真知子は情熱を持って式根島に赴任してきたのですが、年月が経ち、自分はもう若くないと最近は寂しさを感じると悩みを打ち明けます。

一方、あけみは観光案内がきっかけで旅館の息子・茂からプロポーズされますが、自分は既婚者だと、茂を傷つけてしまったあけみは、翌日柴又に帰ると言い出します。もっと真知子といたかった寅次郎ですが、あけみを連れ帰ることが目的のため、仕方なく真知子に別れを告げ柴又に戻るのでした。

柴又に戻った寅次郎は、真知子を思い出し鬱々としていたところへ、突然真知子がとらやを訪ねてきます。体調不良の父親の見舞いや死んだ親友の娘・千秋の誕生日を祝うのだと言います。
家族ぐるみで付き合ってきた、千秋とその父親・酒井は、堅物な人間でしたが、娘の千秋が懐いている真知子に惹かれていて、母親になってほしいとプロポーズとも受け取れる申し出があり、真知子は逡巡します。

真知子のそんな心情をとんと知らない寅次郎、翌日、式根島に戻るという真知子を、寅次郎は調布飛行場に見送りに行きます。運が良ければ自分もそのまま付いて行きたいそぶりでしたが、真知子に酒井のプロポーズの件を相談されることに。
真知子は、情熱的な人生を送る機会も無く、胸の高鳴りも無く平凡な結婚をして後悔しないかという、そんなためらいの気持ちを寅次郎に打ち明けます。それを聞いた寅次郎は「その人はきっといい人ですよ」と真知子の結婚を促し背を押してあげるのでした。

自分の幸せより相手の幸せを思いやってしまう優しい寅次郎、顔で笑って心で泣いて、真知子を見送ると、とらやに戻らずそのまま旅立ってゆくのでした。

見どころ:映画「二十四の瞳」をイメージするような、離島での先生と生徒たちに混ざって浮かれる寅次郎が笑えます。しかし、最後は例の如く、もう若くない寅次郎にとって失恋は痛手、しみじみ感が漂います。
人生のキーワード:愛ってなんだろう?

【第37作 男はつらいよ 幸福の青い鳥】★★★★
1986年/マドンナ:志穂美悦子/長渕剛

萩から下関へ、そして九州の筑豊までやって来た寅次郎、昔の知り合いを思い出して、芝居小屋の一座を尋ねてみると、座長は亡くなっていましたが、一人娘の美保が、寅次郎のことを覚えていてくれました。
唯一の家族父親を亡くした美保に同情した寅次郎は、「幸福の青い鳥がほしい」という彼女を慰め元気づけ、何かあったら東京の葛飾柴又のとらやに来るよう言い残します。

美保は優しい寅次郎の好意を喜び、ほどなくして上京してくるのですが、寅次郎が不在でうまく連絡がとれず、気落ちして体調を崩してしまいます。
そんな時、たまたま健吾という青年と知り合い助けてもらいます。健吾は画家を目指し、鹿児島から上京、映画の看板屋での住み込みの仕事をして生計を立てていました。九州出身の二人は親近感を持ちお互いに惹かれあいます。

とらやを訪れた美保は、ちょうど帰ってきた寅次郎と再会でき、寅次郎は、親身になって美保の世話役に邁進します。とらやに下宿させ、仕事を斡旋し、更には区役所の結婚相談所まで出向きます。

さて一方、美術展に落選ばかりして精神的に滅入っていた健吾は、美保に再会し慰められます。お互い身の上話をするうち、「今晩泊まっていけよ」と言う強引な健吾と、美保はけんか別れしてしまいます。

数日後、寅次郎が店番をしているところへ、健吾が美保に謝りに来ました。お互い好き合っているのに気持ちをうまく伝えられない不器用な二人を黙って見ていた寅次郎は、美保に健吾を追いかけるよう背中を押してやります。
柴又駅で追いついた美保の手を健吾は握りしめて、めでたしめでたし。

見どころ:若い男女の青春物語、芸術家志望の青年・健吾を演じる長渕剛の熱演に注目。
人生のキーワード:幸福の青い鳥はあなたのすぐ傍にいる、気が付かないだけ・・

【第38作 男はつらいよ 知床慕情】★★★★
1987年/マドンナ:竹下景子(2回目の出演)/淡路恵子/三船敏郎

北海道を旅していた寅次郎は、宿探しの途中、獣医の上野順吉のポンコツ車に乗せてもらった縁で、知床の順吉の家に居候することになります。順吉の家に出入りする女将・悦子の居酒屋はまなすで、飲み友達を作り楽しく日を暮らしていました。

数日後、順吉の娘りん子が離婚し東京から帰ってくると聞き、そろそろいとまごいしようとした時、玄関でばったり、りん子と出会い、寅次郎は美しいりん子に胸ときめき、乞われるまま滞在を続けることに。

しばらくして、順吉は悦子から、店を畳んで故郷の新潟に帰ろうと思ってると相談を受けます。順吉は悦子と一緒に暮らしたいと思っているのですが、口べたで堅物の中年男が今さら告白などと、気持ちを素直に伝えられず、逆に悦子を拒絶してしまいます。

順吉と悦子の気持ちに気付いた寅次郎は順吉に「勇気を出して言え!今言わなかったら一生死ぬまで言えないぞ」と順吉を焚き付けるのでした。知床の仲間たちが集まるバーベキューで、順吉は勇気を振り絞り、中半怒ったように悦子に告白します。悦子は涙を浮かべて感激、その場の皆は歓喜し「知床旅情」を歌います。

その夜、順吉の仲間が冗談で「りん子に惚れているんだろう」と言われた寅次郎は、本心を見透かされいたたまれない気持ちになってしまいます。順吉には「勇気を出して言え!」と焚き付けるも、自分のこととなったら、からきしダメな寅次郎。
翌朝りん子宛の「渡り鳥のように南へ下ります」という手紙を残し、逃げるように知床を去ってしまうのでした。

見どころ:知床の大自然。森繁久彌の知床旅情。
人生のキーワード:言いたいことは素直に言おう。言わねば一生の後悔となる。

【第39作 男はつらいよ 寅次郎物語】★★★★★
1987年/マドンナ:秋吉久美子

ある日とらやに秀吉という男の子が訪ねてきます。「俺が死んだら寅を頼れ」という父親の遺言で郡山から柴又へやって来たとのこと。とらやの皆はびっくりしますが、間もなく寅次郎が帰り状況を把握します。
秀吉は、寅次郎のテキヤ仲間・極道者の政とふでの息子で、ふでは蒸発、政は急死したとのことで、寅次郎は秀吉を連れて母親捜しの旅に出かけます。

テキヤ仲間の情報をもとに和歌山へ飛びますが、誘拐犯と間違えられて一騒動、新和歌浦から吉野へと、気落ちする秀吉を励まし、母親の足取りを追ってゆきます。
その晩、秀吉は旅の疲れで高熱を出し旅館で寝込んでしまい、たまたま隣室にいた宿泊客・高井隆子の手厚い看護で秀吉は回復し、寅次郎と隆子は成り行きで「かあさん」「とうさん」と呼び合うことになります。

隆子は化粧品のセールスウーマン、男に捨てられ堕胎までした不幸な身の上を寅次郎に語ります。隆子は秀吉と寅次郎の布団の間に入ってきて微妙な雰囲気になりますが、あっと、秀吉のおねしょでいい雰囲気は台無しに。

翌日、「さよなら、かあさん、どうもありがとう。今度会うときにはもっと幸せになってるんだぞ」と、旅人同士は別れを惜しみます・・

寅次郎と秀吉は志摩の小さな島へ連絡船で渡り、やっとのことで秀吉は療養中のふでに会うことができ喜び合うのですが、秀吉は寅次郎に懐き「一緒に柴又へ帰りたい」と言い出します。寅次郎は心を鬼にして秀吉を叱り、連絡船の船着き場へと戻るのでした。

柴又に帰った寅次郎、正月の商いのため再び旅立とうとします。寅次郎を見送りながら満男が問いかけます。「人間は何のために生きてんのかな」。寅次郎流の答えは「生まれてきてよかったなって思うことがあるじゃない。そのために生きてんじゃねえのか」・・

見どころ:秋吉久美子演じる隆子と寅次郎がお互いを、父さん、母さんと夫婦のように呼び合うくだりに、勘違いするさくらたちの混乱は爆笑必至。終盤、母子感動の再会や寅次郎と少年の別れは感動もの。
人生のキーワード:人間はなんで生きているのかな?

【第40作 男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日】★★★★
1988年/マドンナ:三田佳子/三田寛子

秋の信州・小諸を訪れた寅次郎は、一人暮らしのお婆さんと知り合い、宿を勧められ一晩を過ごします。しかし、お婆さんは重い病にかかっていて、翌朝、病院の女医・真知子が迎えに来たのですが、お婆さんは家で死にたいと入院を拒みます。事情を知った寅次郎が病院まで付き添うと説得し、お婆さんはわが家と別れを惜しみつつ寅次郎に従い入院することに。

寅次郎の優しい人柄に触れ、真知子は寅次郎を信頼しすっかり仲良くなり家に招きます。真知子が未亡人と知った寅次郎はまたまた恋の虜になり、そこへ、東京から真知子の姪の大学生・由紀が訪ねてきて、由紀の趣味である歌詠みの話題で盛り上がります。

柴又に帰った寅次郎は、由紀が通う早稲田大学へちょいと見物に出かけるのですが、ひょんなことから講義に参加、教授におかしな質問をして講義はハチャメチャ、ついには寅さん流のおかしな話に大笑い。

真知子は、母親に預けた息子に会いに東京に来て、とらやに寅次郎を訪ね、思い出話に浸ります。真知子は、柴又駅まで見送る寅次郎に本音を漏らします。女の幸せを犠牲にして小諸で働き続けることに疑問を感じている、と。寅次郎はそんな真知子の言葉を受け止めかね、何と言葉を返したらよいものやら迷ってしまいます。

しばらくして、真知子から小諸のお婆さんが危篤という連絡が入り、寅次郎は由紀と小諸へ向かいましたが、一足遅くお婆さんは亡くなってしまいました。真知子は、家で死にたいと言っていたお婆さんの思いに応えられなかったと、複雑な自らの思いを受け止めてもらいたいように、寅次郎の肩に顔を寄せて泣くのでした。

しかし、寅次郎は真知子の心情や人生を受け止めるには、自分はふさわしい人間ではないことをよく分かっていました。去り時と感じた寅次郎は真知子が留守のうちに小諸から去ろうとします。それと知った由紀が「叔母ちゃまを好きなのね」というと、寅次郎はそれに答えず、由紀が作ったサラダを一口食べて「うん、いい味だ」と。

寅次郎は小諸を後に、松本から、更に南へと旅立って行くのでした。

見どころ:タイトルの「サラダ記念日」はご存知の通り、歌人・俵万智のベストセラー歌集。これにちなんで、助演・三田寛子演じる由紀は短歌愛好者、劇中要所要所に、その時の心情を詠んだ短歌が挿入されているのが特色。
人生のキーワード:人生には切なくも、自らを知り、自ら身を引くこともあるものだ。

男はつらいよ/田舎の風景

【第41作 男はつらいよ 寅次郎心の旅路】★★★★
1989年/マドンナ:竹下景子(3回目の出演)/柄本明/淡路恵子

みちのくのローカル線で、寅次郎は、自殺願望のサラリーマン・坂口の命を救います。持ち前の義侠心で彼を諭し、夜は列車の車掌も交じって皆でどんちゃん騒ぎ。こうして坂口は寅次郎に心酔し、かねてから行きたかった音楽の都オーストリアのウィーンに一緒に行くことを約束します。

あこがれのウィーンに着いた坂口は元気いっぱい意気揚々、一方寅次郎は、慣れない外国・口に合わない食事、言葉も通じずいつもの調子が出ず、ホテルに篭り切り退屈するばかりでした。

やっと外へ出てみたものの、ウィーンの街並みにも美術館にも全く興味なし、そこへツアーガイド中の久美子と遭遇、久美子に惹かれてツアーのバスに乗り込んだまではよかったが、ホテルの名前すら分からず、迷子となった寅次郎を見かねた久美子は、この地に長年住まう日本出身の相談役のおばさんの家に連れてゆきます。

そこで鮭茶漬けをご馳走になり、生き返った寅次郎の本性が復活、おばさんと意気投合、久美子も交え日本の話に花を咲かせます。坂口は舞踏会で知り合った現地女性と恋を楽しみ、寅次郎はドナウ川のほとりを江戸川のほとりに見立て故郷を想い「大利根月夜」を口ずさみます。

寅次郎との会話で郷愁が募る久美子は、日本への帰国とウィーンの恋人との間で心が揺れ動きますが、寅次郎に一緒に日本へ帰ることを勧められ、ついに帰国することを決心します。

いよいよ搭乗手続きをしようというその時、久美子の恋人・ヘルマンが意を決して久美子を引き止めにやってきて二人は離れがたく抱擁します。これにて寅次郎はまたもや失恋、ヘルマンに対して、久美子を幸せにしてくれるよう頼み、帰国の途についたのでした。

見どころ:ウィーンの街並み。言葉は分からなくとも寅次郎の笑顔や身振り手振りで現地の人に通じてしまうおかしさ。
人生のキーワード:言葉は通じなくとも、人は笑顔や行動でコミュニケーションできる。

【第42作 男はつらいよ ぼくの伯父さん】★★★★
1989年/マドンナ:檀ふみ/吉岡秀隆/後藤久美子

久しぶりに柴又に帰ってきた寅次郎。さくらに頼まれ、人生の悩みを抱える浪人中の甥の満男の相談に乗ることに。寅次郎は満男を飲み屋に連れて行き酒を飲ませると、勉強に身が入らないのは恋のせいと知り、人生について語り合うのだが、未成年にもかかわらず大酒を飲ませた事に激怒する博と大喧嘩の末、寅次郎は旅に出てしまいます。

その後、満男も家出してしまいます。満男は、高校時代の初恋の相手・泉が佐賀の叔母・寿子の家にいると知りオートバイで佐賀に向かったのでした。満男は、途中事故を起こしたり、ホモに迫られたりしながらも、やっと泉の元に到着します。

泉は思いもかけず突然満男がやってきたことに驚きながらも感激するのでした。満男はその夜何とか宿を見つけ相部屋に通されると、そこには何と偶然にも寅次郎がいたのです。見知らぬ土地で心細かった満男は、寅次郎に会えて安堵の表情を浮かべ、両親に無事を知らせるのでした。

満男の一途な恋心に自分を重ねた寅次郎は手助けしようと、満男と一緒に泉の家へ向かいます。郷土史研究家という祖父に、聞き上手な寅次郎はすっかり気に入られ、その夜は泊めてもらうことになりました。寅次郎は客人二人を気遣い世話をしてくれる、つつましやかな寿子に好感を抱きます。

翌日曜日、寅次郎は郷土史研究会の老人たちのお供で吉野ヶ里遺跡に出かけ、満男は泉とバイクで散策を楽しみ、寅次郎の恋愛指南の効果か、不器用ながら泉への告白を成就させます。

高校生である泉と満男の帰宅時間が帰宅が遅くなったことで、叔父である高校教師の嘉一から寅次郎は保護者として注意を受けます。
しかし、人情を知る寅次郎は「満男は間違ったことをしてないと思います。慣れない土地へ来て、寂しい思いをしている泉ちゃんを慰めようと、はるばるオートバイでやってきた満男を、私はよくやったと褒めてやりたいと思います」と、まともな応対で満男をかばうのでした。

寅次郎も満男もいよいよ帰途につかなければならない、別れを惜しむ寿子に行先を訊ねられ、風の吹くまま・・と哀愁感を漂わせる寅次郎・・
柴又に帰った満男は皆に温かく迎えられ両親と和解し、満男の家出騒動は寅次郎の世話もあって無事解決したのでした。

見どころ:本作から吉岡秀隆演じる諏訪満男が寅次郎と共に恋愛模様を熱演。
人生のキーワード:苦労は買ってでもしろ、苦労は成長の栄養源。

【第43作 男はつらいよ 寅次郎の休日】★★★★★
1990年/マドンナ:夏木マリ/寺尾聰/吉岡秀隆/後藤久美子

名古屋でクラブを営む母親と一緒に暮らす、満男の恋人・泉が東京へやって来ました。今は大学生となっていた満男は大喜びしますが、泉は母と別居中の父親に会い、母親とよりを戻してほしいと頼みに上京してきたのでした。翌日、泉と満男は父親の勤め先に出向きますが、そこは既に辞職し、交際相手の郷里・大分県の日田に行ってしまったと告げられます。

ちょうど旅から帰っていた寅次郎やさくらたちは、諦めて母親の元に帰るよう泉を慰め、満男が東京駅まで見送りに行くことに。別れ際、泉はどうしても父親に会いたい、このまま日田へ行くと言い出し、心配のあまり動揺する満男は、新幹線の扉が閉まる寸前に乗り込んでしまいます。

さくらたちが狼狽するところへ、泉が世話になったと、母親の礼子がとらやを訪れます。美しい礼子にたちまち惚れてしまった寅次郎は、泉と満男を追いかけ、礼子と共にブルートレインで日田へと向かうのでした。

日田は祇園祭の最中、泉は満男に支えられ父親を訪ねると、父・一男と薬局を営む交際相手の幸枝は二人を歓待してくれました。父親が幸せに暮らしているのを感じ取った泉は、もう引き戻すことはできないと、別れの挨拶をして立ち去る他ありませんでした。

涙を流す泉の肩をそっと抱く満男、ちょうどそこに居合わせた寅次郎や礼子と再会し、四人はその夜、近くの天ヶ瀬温泉の旅館に泊まることになりました。

礼子は酒に酔い寅次郎に好意的に振舞います。寅次郎は礼子の絡みをいい気分で受け止めますが、しかし、それは悲しみを紛らす酒だと内心は分かっていたのです。夜中には礼子が酔っ払って声を上げて泣き、泉が慰める声が隣室から聞こえてくるのでした。泉の両親の破局は寅次郎にも満男にもどうすることもできませんでした。

後日、礼子がクラブに出勤してくると、先ほどママに花束と手紙を置いて立ち去った男性がいるといいます。ホステスたちに訊ねられて、礼子は言います「私の恋人よ」と。

見どころ:恋愛三つ巴。満男と泉の爽やかな恋愛&寅次郎とクラブのママで泉の母・礼子との大人の付き合い&泉の父親の不倫愛。
人生のキーワード:幸せってなんだろう?幸せの感じ方は人それぞれ・・

【第44作 男はつらいよ 寅次郎の告白】★★★★
1991年/マドンナ:吉田日出子/吉岡秀隆/後藤久美子

ある日、東京で就職活動をするために泉が上京、満男が世話をやき、銀座の楽器屋を紹介するも、高卒での就職は厳しく、両親の離婚や母親の職業など家庭環境の問題もあり、しょんぼりと名古屋に帰ることに。

数日後、泉を名古屋に帰してしまった無力な自分に悶々とする満男の元に、泉から鳥取砂丘の絵葉書が届きます。寂しい文面に不安を覚えた満男は泉の家に電話して家出をしていると知らされます。それを聞いた満男は、さくらが止めるのも聞かず、急遽、泉を探しに鳥取へ出発します。

一方、傷心の泉は鳥取をあてどもなく彷徨っていたところ、偶然にも鳥取を旅する寅次郎に出会います。寅次郎が家出の理由を問うと、母親の再婚を素直に喜べない自分が嫌と言います。寅次郎は、実母に捨てられた自分の身の上を話し泉を元気づけます。

翌日、寅次郎がさくらと電話で連絡をとり合い、鳥取砂丘で満男と落ち合うことに。泉と再会した満男は砂丘を転がりながら駆け寄り二人は喜び合うのでした。

三人は寅次郎の知り合いがいるという近くの料亭へ向かいました。そこの女将・聖子は、かつて寅次郎が惚れて所帯を持とうとした女性で、寅次郎の突然の訪問を喜び歓待してくれました。一年前に夫を事故で亡くしたとのこと。

急遽三人はその料亭に宿泊することになり、寅次郎は聖子と懐かしさのあまり酒を酌み交わし思い出話が尽きません。寅次郎と結婚しなかったことを後悔していると言い寄られ、寅次郎の心は揺らぎ、どうしたものかと困惑した、ちょうどその時、階段で様子を窺っていた満男が転落し、二人はしらけてしまいます。

満男曰く「おじさんは手の届かない女の人には夢中になるけれど、その人が伯父さんに好意を持つとあわてて逃げ出してしまう」。それはね、きれいな花はそっとしておきたいという、人一倍優しい気持ちを持ち合わせているからだと大人びた理解を示します。
三人はそれぞれの居場所へと別れ、寅次郎もまた新たな旅を続けるのでした。

泉は、今回の旅を通じて満男や寅次郎一家の優しさに触れ、自分はそれほど不幸でもないと思えるようになり、母親に「ママ、幸せになっていいよ」と告げるのでした。

見どころ:鳥取砂丘。就活の失敗や家庭環境に悩む泉を演じる後藤久美子の熱演。
人生のキーワード:思いやりや優しさは幸せへの道しるべ。

【第45作 男はつらいよ 寅次郎の青春】★★★★
1992年/マドンナ:風吹ジュン/吉岡秀隆/後藤久美子

宮崎に来ていた寅次郎は、とある食堂で理髪店を営む女性・蝶子と出会い声をかけます。相も変わらず金なし宿なしの寅次郎は蝶子と親しくなり、船乗りの弟・竜介と一緒に住んでいるという彼女の家に泊めてもらうことになりました。

翌日、蝶子の案内で地元の観光地・飫肥城に来ていた寅次郎は、そこで偶然、友人の結婚式で宮崎へ来ていた泉と出会います。蝶子に気づいた泉は遠慮して立ち去ろうとしますが、追いかけた寅次郎は転んでケガして救急車を呼ぶ始末。

泉はとらやへ電話するのですが、怪我の具合が分からず騒然となります。結局、満男が寅次郎を迎えに行くという名目で、泉に会いに宮崎に向かい、その日は寅次郎・泉・満男も共に蝶子の家に泊めてもらうことに。

惚れっぽい寅次郎、蝶子と楽しくやってはいましたが、竜介が蝶子に寅次郎との結婚を勧めているのを聞いてしまい、例の如く逃げ腰に、ここで身を引こうと決めた寅次郎は、満男たちと一緒に東京に帰ると言い出します。

突然の予期せぬ別れに怒った蝶子は、一人車で去っていってしまいます。泉は、蝶子の気持ちを慮りここに残るべきと言いますが、寅次郎をよく知る満男は反対意見で「おじちゃんは、最初は面白くて楽しいけれど、奥行きがないから、一緒に暮らせばそのうち飽きられる」と。

東京のレコード店に就職していた泉は、満男と頻繁に会い二人は青春の日々を楽しんでいましたが、泉の母親の病気の付き添いのため、会社を辞め名古屋に帰る決心をします。見送りに来た満男と辛い別れの言葉を交わし、泉は涙をこらえて新幹線に乗り込み、閉まったドアのガラス越しに叫びますが、最後の言葉は満男には届きません。

満男がとらやに帰ってくると、寅次郎が旅立つところでした。寅次郎を柴又駅まで見送る満男は、泉に振られたかもしれないと感極まって「本当はおれ、このままおじさんと一緒に旅に出たい気分なんだよ」と泣いてしまい、寅次郎に「しっかりしろ!」と励まされるのでした。

見どころ:成長して寅次郎に似てきた満男の恋愛模様、寅次郎とのやりとりがコメディっぽい。
人生のキーワード:一つの恋の終わりは新たな恋の始まり。

【第46作 男はつらいよ 寅次郎の縁談】★★★★
1993年/マドンナ:松坂慶子(2回目の出演)/島田省吾

大学卒業を間近になかなか就職先が決まらず苛立つ満男は、父親と喧嘩の末、家を飛び出したまま帰って来ません。そんな時、柴又へ戻った寅次郎は、満男から届いた小包の差し出し先を頼りに、瀬戸内海は香川県・琴島まで満男を連れ戻しに出かけます。

島で満男を見つけた寅次郎は、家へ帰るよう説得しますが満男は聞き入れません。島の仕事を手伝い頼りにされることに自分の存在意義を感じ、看護婦の亜矢とも仲良くなっていたからです。
困った寅次郎が、島の長い階段の途中で休んでいると、満男が下宿している家の葉子という女性に出会い、その美しさに一目で恋に落ちてしまいます。

葉子は神戸で営む料理屋を休業し、外国航路の船長だった父・善右衛門と島で暮らしていました。楽しいお客を迎え、宴会となり、善右衛門と葉子はタンゴを踊り、寅次郎は手拍子で宴会を盛り上げます。葉子は寅次郎の肩に寄り添いいい雰囲気に。

翌日はシケで連絡船が欠航したことを幸いに、寅次郎はズルズルと帰京を延期、その間、寅次郎は葉子と金毘羅参りに出かけます。葉子は寅次郎に心を許し、実は神戸の店は経営難で閉店、借金に追われて島に戻ってきたと打ち明けます。そして、寅さんに話を聞いてもらえた、もっと早く会いたかったと言います。

金毘羅参りから帰った葉子は満男に、寅次郎が独身なのか訊ね、寅次郎の温かさが魅力と語ります。「じゃあ、おじさんと結婚してくれればいいじゃないですか」と言う満男に、葉子は「そういうことは本人の口から聞きたいの」と怒ってしまいます。

満男がそうした葉子の様子を寅次郎に話すと、寅次郎は気まずさから怒ってしまい、挙句の果ては、寅次郎と満男連名で書き置きを残し、二人で島を離れようということになってしまいました。

寅次郎も満男も去り寂しくなった琴島、神戸に戻ると言う葉子に、善右衛門は全財産を手渡します。寅次郎が葉子の窮状を善右衛門に伝えていたのです。寅次郎の心遣いに葉子は感激でむせび泣くのでした。

見どころ:マドンナ葉子を演じる松坂慶子の演技力や島田省吾とのタンゴの舞踏。
人生のキーワード:時に金より愛が人生を左右する。金も愛も欲しいが本音。

【第47作 男はつらいよ 拝啓車寅次郎様】★★★
1994年/マドンナ:かたせ梨乃

寅次郎は、旅先で売れない演歌歌手・小林さち子を見かけ、顔相から必ず売れると励まします。

旅の途中、寅次郎は琵琶湖のほとりに一人佇む女性・典子と出会います。典子は撮影旅行にきていたのですが、うっかり岩につまずき倒れ、居合わせた寅次郎が接骨院に連れて行きます。

典子は寅次郎と同じ宿に宿泊することになり、お互いの身の上話から、寅次郎は典子があまり幸せそうではないと感じとります。鎌倉のハイクラス住宅に暮らすも、家族との会話も少なく、倦怠期のような夫婦生活で愛が冷めていると。しかし翌日、典子の夫が突然典子を迎えに来て、連れ帰ってしまいます。

さて一方、満男は長浜に住む先輩から曳山祭りを観に来ないかと誘われ長浜にやって来ます。そこで満男は、先輩の妹・菜穂と出会い町を案内してもらううちに、菜穂に好意を寄せ始めます。その晩、先輩から菜穂との結婚話を持ちかけられ、満男は困惑しますが、まんざらでもない心境で柴又に帰ってきます。

しかし、菜穂は兄が無断で結婚話をしたことを知って激怒し「満男さんなんか大嫌い」という言葉の断片だけを伝え聞いたので、満男は深く傷ついてしまいます。

しばらくして柴又に帰ってきた寅次郎は、典子がとらやを訪ねてきたことを知り、元気な様子だったと、さくらから聞きますが、それは本当なのかと気にかかり、翌日、満男と共に、鎌倉の彼女の家を訪れ車中から遠目に見ていると、娘と幸せそうに微笑む典子の姿がありました。

「これで俺もすっきりした」と、寅次郎は新たに旅立つ江ノ島の駅で、満男と恋について語り合います。菜穂に振られた満男は恋なんてくたびれると、ほっとした一面をのぞかせます。寅次郎は、若いんだから燃えるような恋をしろと発破をかけて励まします。

正月、自分の結婚話に「大きなお世話」と不機嫌に家を出て行くのですが、江戸川堤で菜穂に出会い、手のひらを返したように機嫌を直します。満男は、自分が寅次郎に似てきたことを感じます。他人の悲しみや寂しさがよく理解できるおじさんを尊敬していると・・

その頃、寅次郎は仕事先の雲仙で「おもいで酒」が大ヒットの小林さち子と再会し大喜び!

見どころ:病と壮齢で体調不良の渥美清さんを満男役の吉岡秀隆さんが助演で頑張ります。冒頭とラストで小林さち子さんとの絡み。
人生のキーワード:恋は人生の醍醐味!恋は幸せの香り!

【第48作 男はつらいよ 寅次郎紅の花】★★★★
1995年/マドンナ:浅丘ルリ子(4回目の出演)/吉岡秀隆/後藤久美子

ある日のこと、テレビで阪神・淡路大震災のドキュメンタリー放送が流れており、それを見ていたとらやの面々があっと驚きの声をあげます。そこにはなんとボランティアとして働く寅次郎の姿があったのです!

そんな折、見合い結婚の話が進む泉が満男の気持ちを確認しに来たのですが、満男は気が動転し心にもない素気ない態度を取ってしまいます。しかし、別れた後、後悔の念さめやらず、結婚を止めようと挙式が行われる津山に向かいます。
式場に向かう泉を見つけるとレンタカーで進路を塞ぎ後退させ、挙式は中止となってしまいます。関係者には殴られ、警察で事情聴取を受けた後、やるせない気持ちの満男は酒を飲み酔っぱらい、恥から逃げたい一心で、たまたま来た列車に乗り込み、そのまま鹿児島から奄美群島の加計呂麻島までやってきてしまいます。

そこで、ある女性に声をかけられたのですが、それはかつて満男を可愛がってくれたリリーだったのです。リリーの家に泊めてもらうことになり、もっと満男が驚いたのは、そこにはなんとリリーと暮らす寅次郎がいたのです。寅次郎は、泉の結婚を邪魔してしまった満男に説教し、満男はしばらくの間、漁師の手伝いをしながら反省しつつ暮らします。

しばらくして泉がとらやを訪ねさくらたちに、縁談は解消したと話します。満男の所在を聞いた泉は、満男の真意を知りたいと加計呂麻島にやってきます。「どうしてあんな事をしたの?」と問われ、満男はついに「愛しているからだよ!」と不器用に叫びます。やっと二人の気持ちが通じ合えた瞬間でした。

その様子を見て、「無様だね」と言う寅次郎。しかし、リリーは涙します。永年待っていたけど言ってくれない言葉を、リリーは寅次郎に言ってほしかったのです。

やがて、寅次郎はリリーを連れて柴又へ帰郷しますが、ちょっとしたことからまたまた喧嘩となり、リリーは一人で島へ帰ろうとします。寅次郎とリリーの気持ちを知るさくらは、リリーを追いかけるよう兄の背をを押します。

結局リリーと一緒に元の島へ戻った寅次郎でしたが、その後やっぱり喧嘩して置手紙を残して旅立ったと、リリーから年賀状が届きます。一つの別れは新たな再会の始まりなのですね・・

見どころ:冒頭とラストで阪神・淡路大震災復興のニュースが流れ、当時の世情が織り込まれたストーリー。寅次郎の最愛の人リリーや、満男の初恋の人、泉が戻ってきて、永年の恋がハッピーエンドに!しかし、公開翌年、渥美清さん死去のため本作がシリーズ最終回となりました。
寅次郎の最後の言葉はさよならの予感「本当にみなさんご苦労さまでした」。

人生のキーワード:恋の予感、さよならの予感、人間の第六感は結構なもんだ。

【第49作 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇】★★★
1997年/マドンナ:浅丘ルリ子/吉岡秀隆

本作は、逝去された渥美清さんを偲び、第25作の「寅次郎ハイビスカスの花」の最初と最後に甥・満男のモノローグを設定した内容となっており、第25作とほぼ被ったものとなっています。

【第50作 男はつらいよ お帰り 寅さん】★★★★
2019年/浅丘ルリ子/吉岡秀隆/後藤久美子

その一生を旅の空にフーテン暮らしで終えた車寅次郎。しかし、甥の諏訪満男にとっては人生の、あるいは恋愛の良き師であり、忘れられない愛すべき存在のおじさんでした。

歳月は流れ、寅次郎は既に亡く、満男の妻も一人娘を残し逝き、今回は七回忌を迎えていました。柴又の帝釈天参道の「とらや」はカフェに生まれ変わり、その裏手にある昔の住居で、法事で集まった人々は、寅次郎が旅から戻ってきては巻き起こす騒動の話に花を咲かせます。

満男は、サラリーマン生活の合間に書いていた小説が認められ、現在は小説家として生計を立てるまでになっていました。
そんなある日、満男のサイン会に並ぶ列に、初恋の人、及川泉の姿を見て呆然、驚きと共に胸がときめきます。国連の難民支援機関で働く泉は、仕事で来日したところ偶然諏訪満男のサイン会が目に入ったのでした。

泉に再会した満男は心浮きたち、泉を小さなジャス喫茶に連れて行くのでした。そこの経営者に会って泉は驚きます。かつて奄美大島で会った寅次郎の恋人のリリーだったのです。懐かしい人たちと再会した泉は、いい大人になった満男に心情を訴えます。

今は介護施設にいる老齢の父親を見舞うという泉に満男は付き添い車で移動します。満男はもう寅次郎と同年代、おじさんの振る舞いを受け継いだように、悩む泉を慰め、励まし、自分の胸に秘めた想いをしっかりと伝え、それぞれの道へと分かれ、新たな人生の旅を歩んでゆくのでした。

見どころ:物語は過去作品の回想映像に、新たに撮影した映像を組み合わせ仕上げられたもの。あれから四半世紀を経た葛飾柴又が描かれ、満男もいい大人となり、寅次郎の思いやりや優しさを受け継ぎ日々を暮らしています。時の流れが感じられ感慨無量・・
物語には、難民問題や高齢化社会・介護施設なども織り込まれ現代の世相が反映されています。
ラストは、過去の作品に登場したマドンナたちの回想シーンが走馬灯のように流れ、これで本当におしまい、第50回作品「お帰り寅さん」が締めくくられます。

人生のキーワード:「思い起こせば恥ずかしきことの数々」「今はただ後悔と反省の毎日」人生は山あり谷あり、挫折や反省を繰り返すことで人は成長する。

「男はつらいよ」まとめ

はい、シリーズ「男はつらいよ」全50本、懐かしみながらやっとまとめてみました。寅さんの笑いとペーソス感溢れるキャラクターが、毎回、何ともいいですよね~渥美清さん以外ではあの味は出なかったでしょう・・

彼が演じる寅さんは、俳優・渥美清さんが重ねる年齢と共に歳をとり、作品を重ねるにつれて角がとれ、当初の自分勝手に勢いづくキャラクターから、マドンナを助けたり、恋愛指南役という人助けのキャラクターに変化していきました。
人情に触れながら日本全国を回る旅ガラス、苦労人車寅次郎は有能な人生カウンセラーとして悩み多き人々の心を慰めていたのですね。

昭和の柴又帝釈天辺りといい、故郷を思わせるように抒情的な日本の風景といい、本作は日本人の心や人情を代表するような映画です。このような素晴らしい映画を創った、山田洋次監督やの製作スタッフの方々、多くの俳優陣に心から敬意を表したいと思います。
まだ観ていない人へ、日本人なら絶対観てほしい映画です。

シリーズ中、マイベスト3をあげるなら迷わず以下の3作です。
【第1作 男はつらいよ】
【第15作 男はつらいよ 寅次郎相合い傘】
【第17作 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け】

★それでは、またお会いしましょう。 Good Luck!

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この記事を書いた人

居所地:日本の中央山岳地域で田舎暮らし
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古代ロマン・スピリチュアル小説ファン
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Blog nickname:福徳星人

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